あの日以来、魂が何処かに飛んでいってしまったような 悲しい表情をしている
無の表情と言った方が正しいのかもしれないが 私には悲しく見えるんだ


「三成様、夕餉が…」
「・・・要らん」

元々食が細い方とはいえ ここまで何も食べないといずれ死んでしまう
一段と細くなってしまった彼の指先を見つめて ずきりと胸の奥が痛んだ

「このままでは 死んでしまいます、お願いですから」
「…生きている 意義とは何だ」
「私は三成様が斃れる所を見たくはありません」

「残酷な奴だ…残酷で身勝手だ、は…」



そうだ 私は残酷だ
秀吉様を失い、絶対的な仇であった徳川家康も存在しない中で なお彼に生を強要する
それは 私の身勝手だ
私の全てが彼だから… 私は彼を失いたくないから


「……何故にお前は私の傍に居るのか、答えろ」
「それは 三成様の侍女だからです」
「建前は要らん」
「…貴方が私の生きる意義ですから」

そう言ってにこりと微笑むと 彼は眉間に皺を寄せて溜息を吐いた
無に等しい程の力で 右腕を掴まれて 引き寄せられる
――その弱々しい力に 総てを委ねた


「私が佐和山に蟄居した時 侍女はお前しか連れて来なかった、何故だと思う」
「侍女としての付き合いが長いから…ですか」
「お前だけは絶対に 私の傍に居ると思ったからだ」
「…随分と 自信がお有りなのですね」
「当たり前だ」


彼の腕の中に居ると 微かに聞こえてくる鼓動に安堵感を覚える
肌が冷たいから 鼓動を聞かないと生きているのか死んでいるのか判らないんだ

私の前では感情を殺さなくても構いませぬ 弱音を吐いても構いませぬ
一人で苦しみを抱えないでくだされ


、私の傍から離れたら殺す」
「承知しております」

彼の細い腰に腕を回した、生を感じさせるように 思いきり力を籠めて

「地獄だろうと何処だろうと 私を連れていってくださいな」


以前 刑部殿にこう言われた事がある・・・ぬしらの関係はなんだか気色が悪いな、と
当時は不快に感じたが、今ならわかる…全くもってその通りだ ――思わず 口元が綻んだ

「一緒に夕餉、食べましょう」






宵、行燈をつけて




(10.9.7 救われてほしい)