今日も万事屋に彼女がやって来た 必ず手土産を持って 僕達の前に現れる 「お前 また来たのかよ…暇人め」 「銀さんだけには暇人って言われたくない」 彼女はぶつぶつ文句を言いながらも 銀さんに紙袋を差し出す 今日の手土産は苺大福らしい 「新八君、神楽ちゃんは?」 「定春連れて 公園か何処かで遊んでます」 「じゃあ 後でコレ渡しておいてもらえます?」 そう言って彼女は僕に神楽ちゃん宛ての紙袋を差し出した 毎度お馴染み、酢こんぶの詰め合わせだ 「勿論 新八君にも、はい」 彼女が 僕に笑顔で三つめの紙袋を差し出した ちらりと 袋の中を覗いてみる ・・・また 眼鏡拭きだ 彼女の手土産は 銀さんに甘味系、神楽ちゃんには酢こんぶ、そして僕には眼鏡拭き 何故僕だけ食べ物ではないのか そして何故 毎回飽きもせずに眼鏡拭きをくれるのか 眼鏡拭きが僕の部屋にどんどん溜まっていくが これをどうしろというのか …銀さんの知り合いだから 何処か変でも仕方ないと 割り切る事にはしたのだが 「おいおい、また新八に眼鏡拭きか?」 銀さん、今更だけどナイスツッコミ! 「えっ!?新八君の本体は眼鏡だから 眼鏡拭きが一番喜ぶって言ったのは銀さんでしょ」 「あぁそうだそうだ、眼鏡拭きマニアだったなコイツ」 「そこ!色々なんか間違ってます!!」 僕は未だに このさんという人物がよく分からない 彼女と銀さんの付き合いは 僕達よりも長い 何処でどのように出会ったのかは 二人とも特に語る事も無いので 僕は知らない 神楽ちゃんは さんの事を「酢こんぶ界の女神」だと称し 慕っている だが 僕は彼女の事をどうも掴めない 彼女は一体 何を考えているのか……寧ろ何も考えていないだけなのか… さんがソファに座って 一言呟いた 「私、お金が無いの」 「……嘘だ!毎回手土産を持ってくるさんに限ってそれは無い!」 「いいや新八君、彼女はお世辞にも裕福とは言えない」 「そしたら何で平然と手土産を受け取るんですか!無理するなって一言…」 「菓子持ってこなくなったら俺が困る」 「身勝手だな!」 駄目だ、この男… 「いいのよ新八君…手土産は私が好きでしている事なの、皆の喜ぶ顔が見たいから」 さん…良い人だけど 眼鏡拭きはあまり嬉しくないよ……とは申し訳ないので言えない 「桂さんにバイト紹介してって言ったら 銀時の万事屋は年中人手不足だって言ったから」 「まーた勝手な事言いやがってヅラの奴…寧ろ飽和状態だ」 さんは 桂さんとも知り合いなのか 攘夷活動に絡んでいたのだろうか…あまり強そうには見えないけれど 「もー桂さんアテにならないんだから!こうなったら私もキャバ嬢デビューかしら…」 「それは駄目だ駄目だ!だいたいお前に接客は無理だ」 「…銀さんがそう言うなら…やめておくけど」 この僕が見ても分かる事は お互いがお互いを特別だと思っている事 なのに肝心の本人達は どうも相手の気持ちがよく分かっていないようなのだ 正直この変な空気には苛々する くっつくならくっつけこの鈍感コンビ!と心の中で 僕は叫ぶ しかしさんをいまいち掴みきれていない今、万事屋に居候されても複雑…ではある 「あの さんって…桂さんとどのようなご関係なんですか?」 タブーな話題かもしれないが 僕は勇気を振り絞って彼女に訊ねてみた だが 僕の意気地なし、銀さんとはどのような…とは訊けなかった 「ヅ…桂さんは仲良くさせていただいてる友人の一人ですよ」 まるでアイドルの交際否定コメントのような台詞だなと思った 「…じゃあ銀さんは!?」 僕は自分が芸能リポーターになったような気がした いいぞ新八!このまま突っ込んでいけ! 「な・・・仲良くさせていただいてる友人の一人、ですよ?」 桂さんの時と台詞は一緒だが 反応が違う 心なしか頬が紅潮して 乙女の恥じらいと言わんばかりの表情になっているような 「おい新八!お前なんなんだよ梨元さんかよいい加減にしろよ」 「だって気になるじゃないですかー」 「だってじゃねぇ!」 「僕 さんの事、実はそんなに知らないですし…質問するのは僕の勝手でしょう」 ちらりと彼女の表情を窺うと 相変わらず頬を紅潮させている この人の事、少し解ってきた 微妙に抜けてるが ただ純粋な人なのではないか… 「いいのよ新八君、疑問があったら何でも訊いて」 「あ…ありがとうございます」 「その前に 厠に行ってきていい?」 「えっあぁどうぞどうぞお構いなく!そこの奥ですから!」 さんが部屋を出て行った途端 銀さんに首を絞められた 「お前なぁ〜ぺらぺら余計な事言うんじゃねぇぞマジで」 「ぐぇっ…いっ意識しすぎですよ!だいたい…どういう関係なんですか」 「友人の一人ってヤツだ…今は」 「下心 大アリですね」 「もうなんなの君!おじさんをからかうの止めてほしいんですけど」 他人の事は言えないけれど 僕の前に居るこの男、こういう所がヘタレなんだな… 「の事よく知らないってお前言ってたけどよ…その…良い奴だから、俺には勿体無い位」 「・・・・・はい・・・」 いつもはオヤジ臭いのに突然思春期オーラ出さないでくれよ、可笑しいから ・・・とは 面と向かって言える筈も無く 「こんないい歳してパフェ食ってる奴より、ちゃんはもう少し甲斐性のある逞しい男が好きなんだろ…」 「弱気な銀さん なんだか気色悪いですよ………あ、」 「…あ?」 さんが 厠から戻って来ていた 「・・・・私 いい歳してパフェ食べる男の人、好きですよ」 「……ぼ…僕 これから姉上と出掛ける用事があったんだ!そろそろ行きますね!」 事の顛末を見届けたいが ここは僕が出て行かないといけない 空気の読める男・新八は 足早に外へと・・・ 「今戻ったぞー!あっちゃん 久しぶりアル!酢こんぶは………あれ?」 ・・・・空気読め 神楽ァァ!! 砂糖と塩を 間違えちまえ (09.3.1 パフェが食べたい) |