「なぜ一人で食べてるのですか?」


なんてデリカシーの無いヒトなのだろう、この転校生。

私の事を腫れ物に触るかのように接する奴等が クスクスと笑っている。
教室中から視線が集まる。私と、この電波男に。


「……支倉君、ちょっと来て」
「はい」

私は食べかけの焼きそばパンを鞄にしまい、彼の腕を掴んで教室を飛び出した。




 *  *  *




「あんたねぇ、空気読めないの?空気!私がクラスで浮いてるの知っててああいう事するの!?」
「空気とは吸うものですよね?」
「はぁ!?……もういいわよ」

人気の少ない校舎裏の芝生に腰を下ろす。ここは私のお気に入りの場所。
彼も 私の隣に座った。

「私は一ヶ月前に転入してきたの。友達作りに失敗してこのザマなわけ」
「このザマというのはどういう事ですか」
「孤立してるって事!支倉君も転入して一週間経つんだから その位気付いてよ」

いや待て、気付いたから 声を掛けてきたのか?

「友達が欲しいなら 皆に声を掛ければいいじゃないですか」
「……それが出来たら こんな事になってないわよ」


学校という狭い空間の中でなら、一人でも大丈夫。友達なら地元に沢山居るから。
――そう思っていたのに 視線や話し声が 気になって気になって。

息が詰まりそうだ。



「どうして声掛けたの、私に。馬鹿にしてる訳……では無さそうだし」

顔を見れば判る、彼は至って大真面目だ。

「とても寂しそうだったので」
「そんなに私は哀れに見えた?」
「アワレというのはよく解りませんが わたしはあなたと仲良くなりたいのです」

なんて奇特な人なんだろう。
そういえば彼は 自分の事を宇宙人だかなんだか言っていた。
それはつまり 己の心の広さは宇宙級だ!と言いたいのかもしれない。……違うか。

「ありがとう 支倉君」
「ミキタカでいいですよ、さん」
「私の名前知ってたの!?」
「席で覚えました。窓側の前から順にササヤマ君、カワダさん……」
「わかったわかった!」

席替えしたらどうするのだろう。

「あのさ、未起隆君はどこから越してきたの?私は東京の端っこから来たの」
「マゼラン星雲です」
「…………」

これが俗に言う異文化交流というヤツだろうか……


「未起隆君はさ、周囲の目とか全然気にしないの?馬鹿にされる事もあるでしょう」
「他人は他人、自分は自分ですよ」
「……そう言われれば そうだけども」

彼は楽しそうに 芝生を歩いていた天道虫をつついている。

「未起隆君は私と仲良く……その、一緒に 居てくれるの」
「モチロンです」

綺麗な瞳、なんだか吸い込まれそう。思わず見惚れてしまった。


「うーん。さんは疑り深いですね……」

唇に柔らかな感触がした。彼の澄んだ瞳に 呆けた私の顔が映っている。

「……な、ななななにしてるの」
「キスです。好意を示すにはこうしろと テレビの人が言ってました」

何の番組を観ているんだこの男は!

「だっだめだめ!こういう事は他の人にやっちゃだめだからね、大変な事になるから!」
さんにはいいんですね」
「ああ言えばこう言う!」




嗤いたければ嗤うがいいさ。

「もー……なんだか疲れたけど元気出た。ふふふ」
「それはよかったです」

杜王町で初めて出来た友達が宇宙人なんて、とっても素敵でしょう。




Space nap



(13.1.12 宇宙に比べたら学校なんて塵みたい!)