今回のターゲットはとある製薬会社の社長。
彼の人間性、生い立ち、そんなものは全く知らない。ただ これから息の根を止める、それだけ。


「いつまで俺達は成金夫婦のディナーを眺めてなきゃいけねーんだ」

双眼鏡を片手に プロシュートがそう吐き捨てた。

「標的以外の人物には傷一つ負わせちゃいけないって指令なんだから仕方ないわよ」
「皆殺しなら三分で済むのによォ。俺達は何分此処に居る?」
「かれこれ三時間ほど」
「……しっかしウマそうだよな、あのステーキ」


標的は妻と共に、高級ホテルのスイートルームでディナーを楽しんでいる。

かたや私とプロシュートは ホテルの向かいにある空ビルから 彼等の華やかなディナーを覗き見している。
標的が一人になったら即暗殺。実にシンプルな仕事だ。


「確かに美味しそう。はぁ……私もお金持ちの男性と結婚すれば 毎晩ステーキ食べられるのかしら」
玉の輿に乗る気か!?最高のジョークだな!」

プロシュートが腹を抱えて笑いだした。そこまで笑わなくてもいいのに。


「ほら 見てみろよ」
「さっきからこのボロ双眼鏡でずっと見てるってば」
「最後の晩餐に相応しい豪勢な食事じゃあないか」
「……私達 ろくな死に方しないわね」

嬉しそうに微笑む女性の顔を 私達は歪めに来たのだ。


「あーあ、私だって恋人と向い合って豪勢なディナーに舌鼓を打ちたいのに」
「薄暗いビルの一室で他人の食事を一緒に覗く恋愛だって味があるだろ」
「仕事中はデートって言わないし……」
「わかったわかった。休みが被ったらいつもの所に行くか」

いつもの所、とは アジトの近所にあるごくごく平凡なピザ屋を示している。
彼も私も衣装に金を掛ける性質なので、高級ステーキなんて二の次だ。そりゃあ タダでくれるなら食べたいけれど。

「でも やっぱりステーキ食べたい。たまにはワンランク上のお店に行かない?」
「給料が上がったらな」
「……リーダーの交渉力に期待するしか無いわね」

これは 暫くピザ屋デートが続きそうだ。
リーダーにはストライキせんばかりの勢いで ガツンと賃金交渉してほしいのだけれども。



「お、女が動いたぞ」

トイレに行くのだろうか、妻が部屋を出ていった。男が漸く一人になった瞬間。


スタンドを発動させる。さあ 仕事の時間だ。
ピザをカッターで六等分するのと同じように、他愛も無いコト。







ハコニワデート




(13.3.14)