いーい? これからわたしが「いいよ」って言うまで 目はとじててね? ほらほら、いいからとじてよ! ・・・・・じゅんびできた! 目、あけていいよ! え? ちがうよ、わたしがチョコをわたしたのは ひとりだけ 大すきな人だけだよ 17+17=chocolate 「今となっては昔の事だが、あの頃のは可愛かった」 「何よ その言い草、じゃあ今の私は?」 「すっかり……」 「すっかり何だって言うのよ」 あんな恥ずかしい記憶を今更掘り返すなんて、なかなか酷い男である そう あれは私が初めて元希にバレンタインチョコをあげた時の事 幼稚園生だっただろうか 「大好きな人だけだよ…ってさ!あっはははは!カワイイ!」 「あぁもう本当うるさいし笑いすぎ!」 私が “お隣さんの元希くん”に恋をしたのは 今から十年以上前の話だ 同い年で 一緒に遊ぶ事も多かった私達は 友達以上の関係である…と自負している ただ私達の関係は所謂幼馴染というもので、恋仲ではない 私は初めてバレンタインチョコをあげたあの頃から 元希に恋をしているのだけど 一方 私の部屋でゴロゴロしながら 昔話で馬鹿笑いをするこの男はというと… 昔っから 格好良くて運動神経が良い、即ちモテモテ街道一直線だ 平々凡々で告白なんてものに縁遠い私をよそに 好きだ好きだと数多の女子に言われ続け―― 俺は罪つくりな男だ、なんて天狗になっている元希を見ては 苛々する毎日だった 中学の頃、怪我をしてからは・・・色々あった 私も正直どうしていいか分からなくて ろくに話もしなくなったっけ 「そういや、なんでチョコくれなくなったの?」 「……えっ?」 中学一年生のバレンタインデーが 私にとって最後のバレンタインデー 元希が怪我で荒れていたのを機に 私はチョコをあげなくなった 今はもう荒んでいない、けれど 同時期に 私に照れという感情が芽生えたから だって、本命チョコだよ? 昔 あんなに好意を全面に押し出してチョコをあげていた自分が信じられない 「さては 俺が沢山貰うからって気ぃ遣ってくれてんのか」 「…自惚れ野郎って呼んでいい?」 幼馴染の義理チョコ、ではない 私にとっては がっちがちの本命なんだ 「俺 なんだかんだ言って楽しみだったんだよな、二月十四日」 「沢山チョコ貰えるから? あ、可愛い女の子から告白されるから?」 「毎年デレデレしながらがチョコくれるのが面白くて」 「・・・・・・」 どうして私はこの男が好きなのだろう 「でもホワイトデーにお返ししてくれた事無いよね」 「ホワイトデーなんて後付け設定だろ?」 「そんな堂々と言わなくても…」 元希は背も高くなって がっちりした体型になって 野球部で頑張っていて …このままでは 私の傍から居なくなってしまうのも時間の問題だと思うのだ でも 気持ちを伝えるのは怖い 「なぁ が好きな奴って誰?」 「……な…っ!?」 「チョコを渡すのは一人だけ、だろ?チャンの名言。俺以外の誰かにあげてるのかなーって」 「誰にも渡してないよ。そもそも元希以外の男子に渡した事が無い」 「おぉー凄ぇ!お前俺の事どんだけ好きなんだよ!」 「む…昔の話でしょ」 「今年は俺にくれないの?」 なんだか、見透かされている気がする 元希は恋だの愛だのに疎いだろうと思っていたが 所詮それは私の思い込みでしかなくて 実際 十年以上も恋心を抱かれ続けていたら 流石に気付く筈だ…恐らく それでいて、こうしてからかって楽しんでいるのなら 本当に意地悪なヤツだ 「元希が欲しいっていうなら あげても…いいけど…」 「いいのかぁ?があげるのは たった一人、大好きな人だけなんだろ?」 元希が意地の悪い笑顔を浮かべている 「ま、俺はから貰うのが一番嬉しいけど」 「…どうしたのよ 急にヨイショして」 「催促だ、催促。お前の重い愛を受け止めてやるから安心しな。はっはっは」 私は からかわれているのだろうか 「…いいか?俺がいいぞって言うまで 目は閉じてろ」 「えっ?」 「いいから さっさと目ぇ瞑れ」 言われるがままに目を瞑る もしかして この展開は…!? 唇に全神経を集中させていると 唇を抉じ開けられ 口内に何かを放り込まれた 「もう開けていいぞ」 私の口の中に ミント味のガムが入っていた 「チャン、真っ赤だけど何か期待した?何かされると思った!?」 「…キシリトール」 「ホワイトデーの先払い…ってて!蹴るなよ!」 元希の尻を蹴飛ばして 私は部屋を出た 乙女心をからかうなんて 本当に酷い男だ 私達は 幼馴染という名の腐れ縁 「お前の重い愛を受け止めてやる、か・・・何様のつもりよ」 だけど 少しだけ 期待していいかな (11.2.9 もうすぐチョコ交換イベントの季節ですね) |