今日も は仙蔵と文次郎の部屋を訪ねていた 無論、忍たま長屋は女子禁制である 高学年になると 学んだ忍術を如何なく発揮し、違反を犯す者達は少なからず存在する (何をするわけでもなく駄弁っているだけなら 大したことは無い) 三人はそのように考えている。そう、日常を愉しむのならば 細かい事など気にしてはいけないのだ 「私がボーロ嫌い、という噂がくのたま達の間で実しやかに囁かれているのは本当か?」 仙蔵が髪を梳かしながら、に訊ねた 「うーん…そういえば下級生の子達が言ってたかも。立花先輩は甘い物が苦手だって」 「根も葉もない噂というのは何処から生まれるのだろうな」 「下剤入りお菓子を贈られる可能性が減るのだし、別にいいんじゃない?」 「この私にそんな物騒なモノを寄越してくるのは、どうせくらいだ」 ぱちぱちと 算盤を弾く音が部屋に響く 二人は衝立からひょいと首を出すと、文次郎が委員会の仕事に勤しんでいるのを黙って眺めた 「……なんだよ」 作業の手を止める事無く 文次郎が口を開いた 「文次郎、委員会の時間内に終わらせられないのか?算盤の音がうるさいぞ」 「私は学級委員長だからよく分からないけど、会計ってそんなに大変?算盤の音がうるさいよ」 「お前らの喋り声の方がうるせーよ!」 衝立を退け、文次郎の作業を間近で見守る事にした 文次郎はわざとらしく溜息を吐いた。追い払わない辺りが 彼の諦めスキルの高さと言うべきか―― 「我が作法委員会に残業の二文字は無い」 「仙蔵…お前の委員会も無駄な出費が多いんだよ、俺の仕事を増やすな!」 一方 は鉄粉おにぎりを一口齧ってみた (おお、これは本当に食べられない) 「…はいいのか?戻らなくて。あとそれ齧るな」 文次郎が訊ねる。残念ながら集中力が切れてしまったようだ 「私は一人部屋だから気楽なモンよ。やる事全てやって暇だから遊びに来たんだし」 「俺へのイヤミか それは」 文次郎は背後に座っていたの方を向くと 突然ふっと笑った 「 これ…」 どうやら頬に 先程の鉄粉おにぎりの鉄粉が付着していたようだ 笑いながら文次郎がの頬に触れた 他意は無いと分かってはいたものの は一瞬身じろいでしまった 「…待て待て 私を蚊帳の外にしていい雰囲気を作るな、何か気に食わん」 「何言ってんだ仙蔵」 「文次郎、お前という奴は本当に…まあいい」 仙蔵はの後髪を くい、と引っ張った 「うわっ」 「、お前あんまり実習の成績よくないだろ」 「どうして!?否定は出来ないけど」 「全体的に鈍い」 「…随分と辛辣ね」 そう言いつつも はけらけらと笑う。その様子を見て 本当に鈍いと仙蔵は思った 危機感が無く、親しい仲とはいえ 後ろを取られてもまるで気付かない (そこがのいい所でもあるが…長所と短所は表裏一体だ) 「仙蔵、文次郎、もうすぐ卒業試験だね」 今それを言うか…と言わんばかりに 話題を振られた二人の顔が曇った 「私は問題無い」 「俺達はさておき は今のままだと落第だろ」 実際、二人ともの事を気にかけていた 卒業後くノ一の道に進まないは 些か他者よりもやる気が欠けているのだ 「座学は平気よ」 「実技がまずいだろ」 「・・・・・・」 仙蔵は乾いた笑みを零し、文次郎は頭を抱えた 「よし、明日から俺と鍛錬だ」 「算盤抱えて池に入るとか勘弁してよー」 は助けを求めるが如く、ちらりと仙蔵に視線を送った 「私と一緒に卒業出来たら 何か欲しい物を買ってやろう。という訳で鍛錬頑張れよ」 「仙蔵ー!」 ひ び の き り と り (12.1.23 ふたりともだいすきよ!) |