のお遣いで 僕は文次郎の部屋に来ている。 「文次郎、中学の卒アル持ってる?」 このくらい自分で言えばいいのに ……今迄ならにそう言っていたかもしれない。 ただ 一昨日の出来事をきっかけに、に対してあまり強く言えなくなってしまった。 (あの涙には 文次郎に対する感情全てが詰まっていた) 文次郎は 首をかしげた。 「卒アル?突拍子ねーな。多分実家にあると思うけど」 「どうしても見たいんだ!」 実際 僕自身も 今現在の仙蔵に興味はある。 「実家から郵送してもらう事なら出来るけどよ……なんなんだ急に」 「じゃあ送ってもらって!昼飯のパン三日分までなら奢るから!」 「お、おう……」 これにて からの「卒アル持ってくるように言って」の命は達成した訳だが、 「文次郎、仙蔵って人と仲良かったの?」 「お前 仙蔵と知り合いなのか?小学校から一緒だったよ。まぁ仲良いっちゃ良い……ような」 「が予備校で仙蔵クンと仲良くなったらしくて」 の名を聞いて 文次郎の表情が少し変わった。 「なあ、さんに俺なんかマズい事言ったかな。明日月曜だから会うし 一応謝った方が」 「文次郎は謝るような事してないよ。彼女たまに情緒不安定になるからさ」 なんだか あまりフォローになっていない気がする、ごめん。 「さんの事よく知らないけど いつも怒り顔だったからよ、まさか泣くなんて……」 「あー……人付き合いが得意じゃないだけなんだ!だから気にする事は無いよ」 「仙蔵と仲良くなれるなら 得意じゃないなんて事無さそうなんだが」 「…………」 形容しがたい空気になってしまった。何か新しい話題を探さなければ…… 「そういえば伊作って さんと付き合っているのか?」 「……ええっ!?」 「なんとなく熟年夫婦のような空気を感じて」 「熟年って……仲は良いけど恋愛感情のようなものは一切無いよ。普通に友達」 はお前の事が好きなんだよ!と言えたらどんなに楽になれるだろうか。 ![]() 「ちゃん、起きてる?」 同室のそうこちゃんが 私に呼び掛けている。 二段ベッドの下段に横たわっていた私は うん、と呟き 半身を起こした。 「ちゃんに ひとつ頼みたい事がありまして……」 「宿題なら私もまだやってないから期待に添えないよ?」 「そうじゃなくて!今度バレー部で試合があるんだけど、助っ人として出てもらえないかな?」 「助っ人……私が!?」 思わずベッドから飛び出した。 「怪我した子が居てメンバーが足りないの。お願い!」 「私 足引っ張りそうだけど大丈夫かなぁ」 「バレーの授業中に気付いたんだ、ちゃんサーブが上手いって。だから絶対大丈夫」 大会とは 参加する事に意義がある、以前 そうこちゃんはそう言っていた。 私が今ここで引き受けて、そうこちゃん達バレー部の為になるのなら―― ……部に属していない私にとって “他校との試合”という響きは何だか魅力的でもある。 「わかった。私でよければ協力を……」 台詞を言い終わらぬうちに 両手を力強く握られた。 「ありがとう!試合は今週土曜日、網武高校で行われるよ。よかったーこれで無事参加できる!」 試合を体験してみたい、なんて浮ついた気持ちを抱いて引き受けた私に向けられた そうこちゃんの満面の笑み。 (……これは 土曜日までに沢山練習して 彼女の期待に添わなきゃいけないわ) 罪悪感から芽生えたやる気に 私は燃えた。 そのお蔭か すっかり忘れてしまっていた、文次郎の前で涙を流した事を。 (12.4.16 点と点を繋げよう) |