「昨日 此処に来たんだがな、バスの終電に間に合わなそうだったから泊らせていただいた」 玉子焼きを食べながら 仙蔵がそう言った 「…いや、それはいいんだけど…何で?」 「お前がなかなか動かないからだ」 「動かない・・・?」 が ちらりと母親を見ると 明らかに仙蔵にときめいている それをは見て見ぬ振りをして 椅子に座った 「お母様 昼御飯ご馳走様でした」 「オホホホ、ありがとう」 その不思議な二人のやりとりに はどうしていいか分からなかった そもそも お母様って何だ、お母様って オホホホって何だ、オホホホって 「、こんな素敵な男性を何処で見つけてきたの?」 「どっ…何処って学校…ですけど…」 「良いわねぇ…私も学生になりたいわ…」 あんなに「学校辞めてもいいのよ」なんて言っていたのに 驚くほどのこの変化 これは 此処に居る仙蔵が魔術でもかけたのだろうか・・・は素でそんな事を考えていた 「母さん、ところで今日私を呼んだのって縁談の・・・」 「そうだったんだけどね、もういいわ」 「・・・はぁ!?」 「貴方達が上手く行けば 私は本当に仙蔵さんのお母様になれる訳でしょう?」 「…それで大丈夫なの…?揉め事とか起こらない…?」 「相手方はそんなに心の狭い方じゃないわ…それだけに良い縁談、ではあったけどね」 が仙蔵の表情を窺うと いつもの不敵な笑みではなく“爽やか好青年”の笑みを浮かべていた 「…あぁそう…マダムキラーだったなんて…知らなかったわ」 きっと 私の知らない所で 説得してくれたんだろう・・・多分ね は そう思う事にした * * * 「行く前に 一言私に言ってくれたらよかったのに」 「…そもそもが実家に帰ってくるとは思わなかった」 「なにそれ秘密主義?……あぁ!私の為に動くなんて恥ずかしくて言えない、とか!」 「……自分で言ってて恥ずかしくないのか」 バスに揺られながら 山の奥へと進んでいく は不思議な感覚だった・・・以前まではあんなに関わり合いたくないと思っていた相手と、どうして… 「夏の日を思い出すね、学園長に頼まれて重い荷物を運んでさ…」 が窓の外に視線をやる仙蔵を見つめながら呟いた 「お前がアイス食わせろって騒いだあの日だな」 「あの日もそうだけど今日も 相変わらずこのバスは他にお客さんが居ないのね」 「私は 人が居ない方が落ち着く」 「…当然のように隣の席に座ってたわ、ごめん」 「お前なら別に構わない」 「どうしてそういう事を不意打ちで言うかなぁ…」 がたがた、と 音を立てて 砂利道の上をバスが走って行く そろそろ学園に着く頃だろう 卒業したら こうして時間を共有する事も滅多に無くなってしまうのかな そう思った途端 はひとつの言葉を頭に浮かべた (この人に一生縛られてもいいわ) 「…いかんいかん…なんて危険な思考だ」 「…何か言ったか?」 「い、いえ!…もうすぐ冬だなぁって…思っただけ」 最近は 色々な事があっという間に過ぎ去っていったような…そんな感覚をは覚えていた 過去を悔やんでも戻る事は出来ない ならば未来を良くする為に過ごそうじゃないか …貴方のお陰でポジティブになれたのかしら 「、」 「なにか・・・・・」 「……どうしてそういう事を不意打ちでするかなぁ…いつも…」 熱を帯びた唇で その一言を零すように呟いた あぁ このまま 此処に居させて 寮に戻ると 文次郎が焦った顔をしながら仙蔵に詰め寄った 「何処かに泊りに行くならそう言っていけよな!も朝から居なくなるし」 「何なんだ突然…親父気取りか!?」 「違う、誘拐事件なのではないかと教師達が騒ぎだして やべぇ状況なんだよ」 「・・・ゆうかいじけん?」 いまいち状況が掴めていない状況のを 仙蔵が小突いた 「面倒な事になった訳だ…急いで職員室に行かないと」 「なになに仙蔵意味解った?誰が誰を誘拐だって?何だって?」 「だから…誰かに、私とが攫われ………面倒臭いな 謝るのは好きではないんだが」 「私 行く時に小松田さんに言った筈だけど」 「…早朝の小松田さんは信用してはいけないという事だ」 あぁ、次から次へと色々な事が起こるから 甘い青春を謳歌出来ないのね はそう思って溜息をつきながら 職員室へと向かった (09.2.9 ここまで読んでくださった方々に ありったけの感謝を!) |