空がこんなに青いとは思わなかった 布団に包まったまま もぞもぞと移動し 空が見える位置にまで移動する 鳶が空を悠々と滑空しているのを見て 少し羨ましく思った そういえば 下ばかり見ていたのかもしれない こんなにも眩しい陽の下で堂々と歩いていたのは もう 遠い昔のようだ 「あぁっ、また動いてる!」 「げっ もう帰ってきた」 「まだじっとしてなきゃ駄目だって」 「あんたは私の小姑か何かか?分かったよ、大人しく寝てりゃいいんでしょ」 この男は 甘い 私なんかを介抱する時点で 忍者失格だ 「ねぇ伊作、空ってこんなに青いのよ・・・知ってた?」 そう言って 私は空を指差す 「晴れてる日は そりゃあ青いだろ?」 「……あんたは幸せ者だよ」 「…ってそんな事言うような人だったっけ」 「………時間は人を変えるのよ」 そう 時間は人を変える この男のように 殆ど変わっていない人も居るがな 「でも安心したよ、が元気そうで」 「・・・元気じゃないからこうして寝かせられてるんでしょうが」 「口が達者なのは相変わらずだよ、それは元気な証拠さ」 「褒めてるのか貶してるのか」 あれは 不覚だった 五、六人の忍者に囲まれた時 勝算はあった 私は誰よりも強い、そう信じていたから だが違った・・・相手全員が手慣れだったようだ その瞬間 一人前になってからは初めて思った 「味方が居れば良かったのに」 任務なんて自分一人でなんとか出来るという自信があった だから 私はいつもいつも 一人で闇を駆けていたんだ 漆黒の空に 鬱陶しい程に真赤なものが舞った 「まさか自分の血を こんな形で見るとはな…」 忍界ではちょっとした有名人になっていたというのに 此処で終わるのは些か残念だ だが 死ぬ覚悟は とうの昔から出来ていた 「無敗の様も此処で散る、か・・・」 何処の馬の骨かも分からないような野郎に死に様を見られるのは御免だ その一心で 私はひたすら駆けた 人の気配が皆無になったその場所で 私は力尽きた 目を開けると ごく普通の民家のような所に 私は寝かされていた 「向こうの世界って 随分質素なのね……期待外れだわ」 「気分は如何?」 その声に 思わず半身を起こす その瞬間 一撃を喰らった脇腹が悲鳴を上げた 「い……ったた……」 「まだ起きたら駄目だよ、傷口が開く」 「……凄く痛い…何だ、死んでないのか」 私を助けたらしき男の顔を見て 唖然とした 「・・・伊作?」 「久しぶり、」 「…うわぁぁ!?ったたたぁ…」 「だから動いたら駄目だってば」 「どうしてあんたが此処に居るのよ!」 「川の近くで倒れてる忍が居たから助けたら だったんだよ」 生きていると 思いがけない事が何度もあるものだ 私が死にかけたという事実も思いがけない事 だが それよりも 同じ学び舎に居たこの男に再会した事の方が もっと 思いがけない事、だった 「そろそろ 伊作に拾われて半月は経つかしら?」 「の傷もまぁマシにはなってきたみたいだしね」 「ええ…お陰様で」 この男は 相変わらず 怪我した人は助けないと気が済まない性分なようだ そういう所、学園に居た頃から 変わっていないようだ 「……私の事は知ってるでしょ?」 「何を今更」 「そうじゃなくて…卒業してからの私よ、風の噂とか」 「聞かないな」 「…えぇ?ちょっとした有名人だったのに残念だわ」 「生きていれば それでいいよ」 伊作は 気になるような素振りを全く見せない 知ってて 知らぬ振りをしているのかな 「私 生き延びるつもりはなかったのに」 声に出すつもりの無かった言葉を つい 零してしまった 「あ…ごめん 助けてもらったのに」 「はまた…戻るのか」 そう言った彼の眼は 冷たかった 「・・・闇は孤独だから嫌い、でも 私にはこれしか生きる術は無いんだもの」 そうよ 私にはこれしか無い 今から明るい生活を送れる自信も資格も無い 「も 人を助ける側になってみたら?」 「…私が?そりゃあ私だって誰かさんのせいで不運に巻き込まれる保健委員会だったけども」 「無理しなくていいと思う」 「無理なんて別に・・・」 「君はあの日死んだ、今の君は生まれ変わった君…これでいいんじゃないかな」 「そ…そんな簡単に……言われても」 実際 私は忍界ではもう死んだ事になったのかもしれないな そう思うと 少し寂しい気もするが 解放された気もする 「薬草擦る程度しか出来ないけど…?」 「は昔からそれだな」 「だって伊作と新野先生が居れば事足りたじゃない!なにその上から目線は!」 「・・・やっぱりその顔が良いよ、は」 ふっと笑みを浮かべた伊作に 不覚にもどきり、としてしまった 学生の時じゃないんだから……そんな事を考えながら 私も微笑んでいた 空が こんなに 青いとは 「あ〜空が見たい」 「さっきも見てただろ?…って だからまだ寝てろって!」 (08.12.17 俗に言うセカンドライフ…いや違うか) |