「あらちゃん こんにちは」 「お母様!こんにちは〜」 善法寺家の玄関で 買い物に出掛ける伊作母とすれ違った 「もう大丈夫?この前…」 「はい、過去だと割り切る事にしましたから…」 「無理しちゃ駄目よ」 この前、というのは 私が振られた日の事だ ショックで涙が止まらなかった私は 無意識のうちに此処に来ていたんだ 伊作は勿論 お母様にも迷惑を掛けてしまった 「ちゃん、彼氏なんて近場で決めちゃってもいいのよ?」 「え…」 「なーんてね! じゃあ ごゆっくり」 近場というのは つまり・・・・・お母様、私は貴方の仰る通り 近場で決めてしまいました 「伊作 せめて玄関まで漫画を持って来てくれると嬉しい……プリンが悪くなるから早くしてね」 「プリンはそんなにすぐ腐らないよ!」 階段を駆け上がる伊作の背中を見つめながら 私は溜息を吐いた 「…やっぱり 私は恋人未満なのかな」 どうしてこんなに複雑な気持ちなのだろう 振られた時とはまた違う この気持ち 私にはよく解らない あの日 が泣きながら家に来たから 何事かと思ったんだ そしたら「秒速で振られたー」って言いながら 玄関に座りこんでしまって… ベタな少女漫画を愛読していただ、きっと告白は成功すると思っていただろう 現実はそう甘くはないんだよ お嬢さん 「…奇遇だね、僕も昨日失恋したんだ」 「………ごめんなさいって…?」 「いや 告白はしてないけど 彼氏居るって言ってた」 「・・・・・・・・」 「なにその目!これも立派な失恋だろ」 「そうだけど……私…初めて言ったのにあんなに…秒速で断られるとは思わなくて」 こういう時は どう接すれば一番良いのか…僕にはそれが分からなかった その時 がこう言ったんだ 「恋人ごっこ、しない?」 「恋人ごっこ?…失恋した者同士で」 「うん」 「…面白そう」 僕もも 自棄だった 友達の延長線のような そんな関係を試してみるだけだと思っていた けれど 始めてみると これが面白いんだ 知っていたようで知らなかったの色々な一面を知れる事が 一番面白い それと同時に と話している男共を睨むようになっていた事に気付いた 何となく腹が立つ は 僕の“特別”というポジションに居ればいい 今までそんな事 考えた事も無かったのに 結局 誰よりも一番好きだったのが だったのかもしれない―――昔から 今まで * * * 「重い…、ほら持って来たよ」 「んーありがと」 「…玄関でカスタードなんとかプリンを食うなー!」 「いやぁ…プリン悪くなっちゃうかなーと思ったら 食べたくなっちゃって」 「最初から食べたかったんでしょ」 私は無意識のうちにプリンをスプーンでぐりぐりと抉っていたようだ 美味しいのだが 見た目的には非常に美しくない事になっている 「ねぇ 私と居て楽しい?」 「え?うん 楽しいよ」 他のどんな男に一方通行の想いを抱くよりも アンタに一方通行の想いを抱くのは格別辛いようだ それも 付き合ってから分かった事 「伊作」 「何?」 「キスして」 「・・・・急にどうしちゃったの!?」 躊躇うのなら やはり私は友人枠から抜け出せないのだ それなら もう… 「…恥ずかしいから せめて目、瞑って」 「………するの!?」 「え から言ったのに」 「…もー…今の伊作の事 全然解んないや……今まで…何でも解るって思ってたのに…………」 もっと知りたい 全部知りたい 君の事を 私の事だけを見てほしい 君の視界の全てを私が支配するんだ そう思う私は 相当の欲張りなのだろうか 「・・・・プリンの味が、する」 (09.4.11 独占欲のかたまり) |