「食満せんぱぁ〜い」 しんべヱがつぶらな瞳で俺の事を見ている 「駄目だ」 「まだなにも言ってないじゃないですかぁ」 「あの店で団子でも食べて休みませんか、だろ…」 「ぎくり」 「……駄目だ、特にあの店は駄目だ」 学園関係者御用達のあの茶屋 確かに 美味いとは思う だが あの店には・・・あの女が・・・ 「どうして用具委員会が山に登ってまでわざわざ用具を直しに行かなきゃいけないんですかぁ」 「それは用具委員会だからだ…喜三太」 「……どっかの会計みたくなりたくありませーん」 「か…会計っぽい?」 「はい」 「あそことは一緒にするな!……分かった、疲れてるだろうから茶屋で休んでいい」 やった〜なんて言いながら 後輩達は茶屋へと駆けて行った ・・・甘い、我ながら後輩に甘い まあいい 俺は何処かの誰かのように 後輩に地獄のような思いを味わせるような鬼ではないからな 後輩達が茶屋に入って数秒後 茶屋を飛び出してくる人影があった 凄く 嫌な予感がする 「用具って事は委員長も居るよね!?ほら居た!け〜まぁ〜!」 ほらみろ、出た 「……俺と同い年だったよな…いい加減 お淑やかになれよ」 「あら、充分お淑やかでしょ?」 普段はお淑やかなフリをしているだけだろうが 「とりあえず俺にもお茶をくれ」 「まぁ!お茶を頼んだ千人目の記念すべきお客様の食満殿には 私を贈呈致します!」 「千人目って嘘だろそれ!いらん!」 茶屋の娘・を初めて見た時 この女性と恋をしたらきっと素敵だろうと思った 微笑みながらお茶と団子を差し出す お淑やかな雰囲気を醸し出している女性 俺だけに その微笑みを向けてくれたら…… ただ 三分後に この妄想はあっという間に何処かへ消えることになるのだが 「貴方、凛とした とてもいい眼をしていらっしゃる」 顔を近づけてそんな事を言うから その時の俺はそれはもう舞い上がっていた 「えっそうですかっはははそんな事は!」 「私は、貴方のお名前は何と仰るの?」 「食満、留三郎」 「まぁ…素敵……もうひとつ、お団子あげちゃうわ」 「い…いいんですか?」 「貴方と私が出会った記念よ」 脳内で 茶屋に咲く一輪の花・さんとの恋物語を夢見ていた俺 有難く 差し出された団子を頬張った ・・・問題は それからだ 「お団子、美味しい?」 「この団子、なんだか格別に美味しかったです」 「……ふふ…っふふふふ……」 「な…なにか…?」 俺が飲んでいた茶を勝手に奪って飲み干し 今までの物静かそうな表情が豹変した 「その団子はそう!私そのもの…」 「……はぁ…?」 「忍術学園六年生の割には あっさりと差し出された団子を食べるじゃない」 「いや…だって此処…茶屋だし?」 「それ即ち この私を受け入れたも同然!」 明らかに理解していない表情をしている俺を無視して が話し続ける 「今この瞬間に決まったわ、私は食満殿のお嫁さんになるの」 「はぁ!?…えっ?はぁ!?」 「ビビビって来たの」 「何だそのビビビというのは!俺の意見は!?」 「あの団子は最高級の素材をふんだんに使った超高級団子なのよ?それを貴方は食べたぁ!」 ・・・ああ、これが詐欺というものか そう俺は思った 「俺はもう行く…お前の道化に付き合ってられる程、暇では無いんで」 そう言って立ち上がると に後ろからそっと抱きしめられた 「…道化じゃないよ、好きになったんだもの」 一瞬どきっとしたが いかんいかん、と我に返る この女は危険なんだ と自分に言い聞かせた 結局あれから遭遇する度にしつこく絡まれている この茶屋 学園から微妙に近いから困ったものだ 「ねぇねぇしんべヱくん」 「なんですか?さぁん」 俺が回想から覚めた時 はしんべヱの隣に笑顔で座っていた あれは探りを入れる時の表情だ 関わらずに 耳だけ傾けていよう 「食満に色恋沙汰の雰囲気はあるかい?」 「全くありません!」 「だよね!まぁ女が出来たなんて言ったらその女をキュッだけどね、キュッ」 キュッと言いながら 首を絞める動作をしている おー 怖ぇ…… 「さんは本当に食満先輩が好きなんですね」 「うんうんっだいすきっ」 …大好きって言われて悪い気はしないけどな 「でも食満はあんまり私の事を好いてはくれないなぁ」 のその一言に 思わずとしんべヱの方を向いてしまった 複雑、そんなあいつの表情を 俺は初めて見た 「さんって先輩と恋仲じゃなかったんですか!?」 「んー難しい質問ね…」 難しくないだろ!最初から恋仲じゃないだろ!……と、叫ぶ気にはなれなかった あんな顔を見たら どうすればいいのか分かんなくなるだろ 「…が好きだ好きだ言っても 冗談に聞こえるんだよ」 「けっ食満!?さっきまで心此処にあらず状態だったのに いつの間に盗み聞きしてたとは!」 「盗み聞きって…声がでかくて嫌でも耳に入るが」 がぶつぶつ呟いている 今更恥ずかしがってどうする 「軽い気持ちで好きって言ってるわけじゃ…私はただ食満と」 「どうしたいんだ」 「食満ともっと恋仲っぽい事がしたい」 「恋仲前提かよ!」 「・・・・・・」 「・・・・なんだよ」 「・・・・・別に・・・」 「……じゃあ今度の休みに…出掛けるか…?」 あれ 俺は何を口走って・・・の切なそうな顔を見たら、ついつい… 「ほ、本当!?」 「えっ…やっ…あー…あぁ」 「う…嬉しい…!……どうしよう何着て行こう」 ・・・まぁ、いいか 嬉しそうだし ![]() 「お前、可愛い反応もできるんだな」 「かっかわいいっ!?そそそそんな直球に言われたら照れちゃうっ」 「言うのはさておき 言われるのは全然慣れてないのかよ…」 (08.6.23 続編が出来たら笑ってくれ…わはは) |