用具倉庫へ向かっていた時 予期せぬ事態が発生した



「嗚呼!愛しの旦那様!!」


…嫌な予感がするのは気のせいか
…左の方から何かが駆け寄って来ているのは気のせいか

気のせいだな 疲れているんだな俺は


あの女が 学園内に居る筈が…



「再会の記念に熱い抱擁を!!」
「うおっ…抱きつくな!だいたい何でが此処に居るんだ!?」

鬱陶しい程の抱擁で これが現実だと嫌でも気づかされる


「うちの茶屋って学園長先生にも御贔屓にしてもらってんの」
「…で?」
「来客が来るから団子を届けて欲しいって言われて…さっき届けた所なの」
「じゃあ 早く帰れ」
「それ、嫁に対する態度?」
「婚姻してない!そもそもいつまでこうして抱きついているつもりだ」
「骨に…なるまで?」
「つまらないぞ」


委員長だというのに このままでは委員会に遅刻してしまう
どうすれば彼女が大人しく帰るかを思案する、俺


「…あ、どうやって私を追い出すか考えてるでしょ」

「……意外と鋭いんだな」
「酷い男……そういう所も好きだけど」


まさに ああ言えばこう言う・・・




「あーっさんだ!」
「おひさしぶりですー」

喜三太としんべヱが現れた  よりによってこの瞬間に
ますますが帰らないじゃないか


「二人共、元気でなにより!」
さん、食満先輩との仲に進展はありましたかぁ?」

この蛞蝓小僧 なに余計な事を訊いて…!


「聞いて聞いてっ皆が委員会の仕事帰りにこの前茶屋に寄ってくれた時に」
「今度の休みに出掛けようかってヤツですか?」
「それそれ!本当に行ったのよ〜聞いてくれる?」


余計な事を言うなよ、という視線をに送るが 見て見ぬふりをしている
こういう時だけ無視しやがって このお喋り女め






 第弐幕





「実は、当日 本当に迎えに来てくれるとは思わなかったんだよね…それでね…」

が笑みを浮かべながら 二人に話し始めた



俺も あの日の事を思い出してみる






「じゃ、今度の休みにうちの茶屋まで迎えに来てね」
「…分かった」

俺は 言ったからには勿論行こうと思っていた
が強気な事を言う割には 心の中で不安がっているのは解っていた




いざ当日に茶屋に行ったら 驚いた顔をして俺の事を見ていた


「本当に来てくれたんだ」
「当たり前だろ…俺の事全然信じてないんじゃねーか」
「違うの…好きって気持ちが大きいと 意外と信じられなくなるものなの」

その気持ちは よく解らないが


「私がどうしても貴方と行きたかった所があるんだ」
「何処?」
「お…お花畑」
「……は、花畑…ップ…ッククク」
「なっ…笑う所じゃないでしょ!?」
「可愛い趣味で」
「その顔!馬鹿にしてるでしょ」


訳が分からない女だけど 何だかんだ言って可愛い奴だ
というか こういう厄介な女は俺のような広い心を持った男でなければ扱えないと思う …多分










「それで私達は念願のお花畑に着いたの…もう一面 花、花、花!」

「食満先輩がお花畑…ップフ」
「…しんべヱ」
「……すみません、けませんぱい」


「さぁ、お花畑に着いて食満はどうしたでしょう!答えは〜昼寝!」

「えぇー最悪じゃないですか食満先輩」
「…喜三太」
「……すみません、けませんぱい」




あの日は暖かくて気持ちが良い日だったんだ…

そしたらが突然寝転がった  俺じゃない、あいつが先に寝転がったんだ





「何してんだよ」
「気持ち良い陽気なもんで、つい・・・・食満もどうよ」
「草むらで寝ろって?」
「ちょっと!草むらじゃなくて花畑って言ってくださいよ…ほらっ」

腕を引っ張られたので 渋々寝転ぶと 意外と心地がいい事が判明した

「…悪くないな」
「でしょ!」



それから暫くの記憶は無い  つまり寝てたって訳だ


に起こされた時 さすがに寝たのは悪かったと思って謝った
そしたら「私も昼寝しちゃったから謝らないで…へへっ」 なんてが笑いながら言った

そんなあいつを見ていたら 無性に愛しく思えて









「それでねー私が先に起きたんだけど、風邪ひいたら悪いなと思って食満を起こそうと思ったの」

そう二人に話しているが にやりと笑みを浮かべた
あの笑みは 嫌な予感がする


おい待て余計な事は言うなよ?」

「……で、起きたと思ったら私をぐっと引き寄せて口吸いを…」
「うわぁぁ一年生の二人にそんな話をするなっ阿呆か」
「いや…作兵衛と平太も貴方の後ろに居ますよ」
「え?…うわぁぁぁいつから全員揃ってたんだ!?尚更駄目だろうが!」







あの時は 自分の気持ちが正直に出てしまった
多分 俺もが好きなんだ  多分好き、なんて言うと女子は怒ると思うが…




唇を離し 目を開けると 目を丸くして間抜けな顔をしているあいつが居た

「ど……どうした…の、急に」
「……が…可愛かったから」
「そう…ですか……あの…好いてなかったら…口吸いはしませんよね…」
「…そうだな」




今まで 半ば強引に会話に付き合わされていた
・・・筈なのに いつの間にそれが楽しく感じるようになっていたから不思議だ






「破廉恥なんですね…先輩って…」
「作兵衛っニヤニヤしながら言うな!あと破廉恥じゃなく……大人と…言ってくれ」
「やーん貴方ったら恥ずかしい!」
…お前がぺらぺらぺらぺら余計な事まで喋るからこういう事に!委員長としての面目が…」
「誰かにこの幸せな出来事を話したかったんです」
「幸せなら 心の中に留めておけよ・・・」



今みたく喧しい時もあれば 可愛く見える時もある ・・・どちらもという女の姿
と関わると 不思議に感じる事だらけだ




「よかったですねさん やっと先輩が目覚めたんですね〜」
「うんうんっ有難うねー喜三太!これで身も心も食満色に…」
「あぁ〜もう早く帰れ!!」






(08.7.11 この話だと何故けまがツンデレしてしまうんだろう)