「食満せんぱぁ〜い!大事件です大事件!!」 しんベヱが慌てた様子で俺の方へと駆け寄ってきた 「なんだ、どうした!?誰か怪我でもしたか」 「さんが」 「・・・・・・・・」 「先輩、聞いてますか?」 また あいつ絡みの話か 大事件と言うから どんな大変な事が起きたかと思えば… 「で、一応聞くがが如何したって…」 「お嫁に行っちゃった!…かも!」 「……はぁ!?」 ![]() 第参幕 「夫が出来たぁ……?…ふーん」 「せんぱぁい!ふーん…じゃないですよ!危機ですよ危機!」 「色々家庭の事情があるんだろ、それに従うしかないだろう」 「駄目ですってば!とにかくさんに事情を聞きに行きましょうよ先輩っ」 しんベヱは意外と行動派なんだな、と感心してしまった いや ただ単に団子を食べたいだけだろうか… 「…わかった、行くからそんなに腕を引っ張るな」 そうして俺としんべヱの二人は いつもの茶屋へと向かった そこには 相変わらずお淑やかなフリをすると その隣に… 「……本当に男が居る」 「だから言ったじゃないですか!あの男の人、最近ずっと居るみたいで…夫疑惑が」 見た所 随分 軟派そうな男ではないか 「さ〜ん!」 しんベヱがの方へと駆けて行った 「あっしんべヱくんだ!」 「食満先輩も来てますよっ」 「・・・・あら本当…なにしてるの?もっとこっちに来たら?」 が俺に向かって手招きをしている だが おかしい・・・いつもなら絶対に向こうから突進してくる筈だが 「…ちゃんはお友達が多いんだね」 の傍に居た軟派そうな男が呟いた 「あの…さん、この人は…」 しんべヱがに耳打ちした 「あのね、彼は・・・・」 「僕はちゃんの未来の夫さ」 お前に訊いてねぇんだよ この軟派野郎!と言いたかったが 第三者なので ぐっと堪えた 「未来の夫ぉ…?」 「そうとも少年、僕が彼女を娶る事は決定している」 「権兵衛さん 私は…」 「もう決定したんだよ、ちゃん」 状況が把握出来ていないが この権兵衛とかいう軟派男が口説いてるだけ…か? 「ちゃんのような可憐な女性を僕はずっと欲していた」 「や…あの…その……私は…」 今 この男…の事を可憐って言ったのか?…正気か? 「ッククク……」 「食満先輩っ笑う所じゃないですよ」 「なんだ?君は…」 を可憐だと思い込んでいるのか、なんて可哀相な男なんだろう そう思うと 笑いが抑えられない 「プッ…貴方はを可憐だと心の底から思ってるんですか?」 「あ…当たり前だろう!こんなにお淑やかで可憐なちゃんが…」 「お淑やか!?…ックク……、お前騙しすぎだって…」 「お前は何なんだ さっきから!」 「…おぉっと」 男が殴りかかってきたが この男は体術がまるでなっていないようだ 容易くかわすことが出来た 弱い男が拳を振り上げるな、と言ってやりたい 「ふん…こんな失敬な男に付き合ってられるか……また明日来るよ、ちゃん」 捨て台詞を吐いて 男は茶屋を立ち去った その途端 がいつもの調子で抱きついてきた さすがの俺も これにはもう慣れた 「いや〜留ちん、格好良すぎてクラクラしちゃったよ!さすが私の旦那様…ウフッ」 「とめちんって俺!?・・・急に素が出たな」 「…あの男さぁ…意地でも私を嫁にする気なのよ」 「嫌なら断れば…」 「いいトコの坊ちゃんなのよ…下手にあっちの家を怒らせたら我が家がパァよ」 下手に扱えないのか…厄介な男に目を付けられたものだな 「しっかしの“外面”に騙されて…憐れな野郎だ」 「…しんベヱくん!そこの団子食べていいよー後で食満先輩が奢ってくれるってさ」 「わーい!」 「おいっ誰が奢るって言った・・・だって事実だろうが!」 「可憐だと思う人が一人でも居れば可憐なんですー」 「…とにかくどうするんだよ、明日も来るって言ってたし」 が大きく溜息を吐いた あのが此処まで参っている姿を見る日が来ようとは… 「留ちん…」 「……な…なんだよ」 「私には貴方しか見えないのに…こういう時は如何すれば良いの…?」 いつもと違うが無性に可愛く思えて ふと抱きしめてやりたくなったが我慢した 団子に夢中になっているとはいえ 後輩が居る所でそんな事をしてはいけない…自制心、自制心 「…嫌われればいいんじゃないか?」 「嫌われる…?それは…具体的に何をすれば…」 「素を出せばいい」 「・・・それは遠回しに私の人格を全否定してるのですか?」 「お淑やかだと思い込んでいる奴に 現実のお前を見せたら多分引くっていう意味だ」 「んまぁ!」 実際 俺がそうだったからな… 初めて会ったというのに 高級団子詐欺に勝手にお嫁さんになる宣言… 今になるともう笑い話になった……と思うがな 「それか誠意をもって正直に断るか」 「……やっぱり…断るしかないものね…」 「お前が嫁いでいいって言うなら別だけど」 「…あのさっ私がもし他の男と婚姻する事になったら……ど…どう思います…か」 「どうって・・・それは」 その時 どたどたと誰かが勢いよく茶屋に入ってきた 「ちゃん!大丈夫かい!?」 …軟派男が戻ってきた 「…はぁ……?…明日来るんじゃなかったんですか…」 「君が心配だったんだよ…よく分からない男に誑かされていないか」 よく分からない男って もしや俺か? なんて失礼な男だ 「権兵衛さん…あのー」 「ちゃん?」 「私は…貴方の許へ嫁ぐ事は出来ません」 よし!よく言った!…って俺は何故こんなに熱くなって… 「…そこの男に何か言われたのか」 「違います、これは…私の意思ですから」 「僕の家に来れば この茶屋ももっと大きくしてあげられるよ」 「……私は…心から愛している人が居るのです」 は 本気だ 俺は・・・彼女の気持ちに応えられるような男なのか? 「本気かい?…僕はこの茶屋を潰す事だってできる、君の大事なこの…」 「貴方は間違ってる……潰したいなら潰せばいいわ」 「おい なに自分から煽って…」 が俺を見て 大丈夫だから、とでも言わんばかりの顔をして 微笑んだ 「ごめんなさい……私は貴方の気持ちに応える事は出来ません…」 そう言って が深々と頭を下げた 「…あの男 帰ってくれたわ、怖がらずに言ってみるものね」 「なんだか凄いものを見た気分でした…大人の事情…みたいな」 「ごめんねしんベヱくん!って随分団子食べたわね…」 すぐくっつきたがるし 面倒臭い事もあるけれど 俺はに好かれて 良かった ・・・のかもしれない なかなかの いい女だよな 「ねぇねぇ留ちん、さっき何て言おうとしたの?」 「…さっき?」 「もし私が他の男と婚姻したらどう思う?…ってやつ」 だけでなく しんべヱまでもが目を輝かせて俺の回答に期待している 「……、耳貸せ」 「はい?」 の耳にそっと囁く よい子には まだ早いからな 「その前に 俺が迎えに行く」 「……うぁぁ…私嬉しくて死にそう!」 「ばっ…いちいち騒ぐなっ」 「あ〜ずるいさん!何て言われたんですか」 「いくら常連客のしんべヱくんでも教えられないわぁ…オホホホッ」 「えぇ〜ずるい〜」 に夫が出来たなんて聞いた時には 正直焦った いつの間にか お前は俺にとって無くてはならない存在になっていたんだな 本人の前では絶対に言わないが 「あっしんべヱくんの食べた団子のお勘定、お願いしますね!旦那様」 「・・・・嘘だろ?」 「本当です、ねぇしんべヱくん?」 「先輩が奢ってくれるって言ったので沢山食べました ごめんなさい〜えへへ」 「…俺は言ってねぇ!」 (08.9.7 電波が控えめになってしまったっ) |