城を抜け出して 久しぶりに仲の良いくの一と話していた時の事
「、山田先生覚えてる?」
「忍術学園の!懐かしいなぁ」
「先生の息子さんってあの売れっ子忍者・山田利吉さんなんだけど」
「…あっそうなの!?」
「驚くほどに男前なの…学園に居た頃に数回見たんだけどね」
利吉さんに興味を持ち始めたのは その時からだった
その頃は 私の婚姻話が知らない間に進められていた時期
そこで私は考えた
誰かに恋人のフリをしてもらい、婚姻の話を破談させたい
・・・ただ 時間稼ぎになるだけであって 結局は許婚と婚姻するだろう と思っていたが
私は利吉さんの事を少し調べ ますます興味を持った
嘘だとしても 一瞬だけでも恋人になれたら悔いは無いと思い 報酬の金額も多くした
夢を見させてもらったら 大人しく許婚の男の許へ嫁ぐ
そして彼に依頼をし 今に至る
しかし 結果的に父上に「勝手にしろ」と言われた
私は…本当に自由になったのか 嫁がなくていいのか
必要最低限の荷物をまとめ 明日の朝すぐに旅立てるように準備をしておいた
明日 城を出たら利吉さんに会いたい
ありがとう、その一言がどうしても言いたいんだ
早く就寝しようと布団に入ったその時 何か気配を感じた
「……誰か居るの?」
かたり、と 天井裏から物音がして 思わず身構える
「姫、ご無礼をお許しください!」
その声と共に 七、八人の城の忍が現れ 私を拘束した
多勢に無勢、下手に暴れたら逆に危険だ
「お前達が何故私を…離せ!……っ…さては父上の命令か!?」
「殿の命令です いくら姫であろうとも」
「そうか、わかった………ははは…これが父上の本当の答えか」
「姫…」
「お前達、そんな顔をするな・・・仕方ない事だ」
檻中ノ花嫁、愛ヲ希フ
「貴方を見る前から…貴方に恋をしていたのかもしれない」
手が届きそうもない所にある窓に 視線をやる
満月が僅かな光を入れてくれる
仮にも姫なのに 如何して盗人が入れられるような牢に居るんだろう・・・
先刻 うちの城の忍と話した事を思い返す
「姫は明日の朝に嫁ぐ事になっております、それまで此処でご辛抱を」
「なに?結局許婚の元に嫁ぐ事に決まってたわけ」
「…そういう事です」
それなら…勝手にしろ、だなんて期待させるような言葉を 何故言うのか
私は このまま父上の思惑通りに動かされるのだろうか
女子に生まれたからには よくある事ではある
ただあの男の思いのままになる事が 私にはもう我慢できない
それに あんなに素敵な人に出会ってしまったら もう
「……明日の…朝……最後の…希望を」
夜は一睡もせず ひたすら空が明るくなるのを待った
少しだけ明るくなった時 鳩を城下へと飛ばした
利吉さんが今も城下に居たら 昨日も使ったこの鳩にきっと気づくはずだ
元々今日は鳩を飛ばす予定は無いし 利吉さんが既にこの場を去っているかもしれない
ただ 一縷の望みがあるならば 気づいてくれれば
お願い、私の前に姿を見せて
せめて、ありがとうを言わせて
「暫くしたら殿がこちらに来られます」
「…わかった、もう下がっていいわ」
「はっ」
忍からの情報だと どうやら私はもうすぐ人様のものになるようだ
鳩は予想よりも早くに戻ってきた、これは覚悟を決めろという事か
「鳩、あんたは私と一緒に来てくれるよね…」
「さん?」
「・・・・ん?」
窓の外から聞き覚えのある声が聞こえ 思わず立ち上がった
「利吉さん!?」
「貴方が来るまで待とうと昨日の茶屋に居たら、この鳩が来たから追いかけたんだ」
鳩を手懐けておいて心底良かったと思った瞬間だった
「ところで此処は…」
「牢、です」
「何でさんが牢に」
「今日嫁ぐ事になって…それまで此処に閉じ込められてるんです」
「…逃げるかもしれないからって事?」
「そういう事です」
「酷いな…」
利吉さんはいとも簡単に 窓から牢の中へと入った
「あの、何を……」
「逃げるんだよ」
「わ…私が?」
「勿論」
「……助けてくれる…の?」
お礼を言うだけのつもりだったのに 彼から差し出された手を私は強く握っていた
縄を使って二人で外に出ようとしたその時
「何をしているんだ・・・」
振り向くと 父上の姿が其処にあった
「お前は…昨日の山田茂吉とやら」
「…さんを戴くと 昨日申し上げましたよね」
そう言う利吉さんのあまりの格好良さに 思わず腰が抜けそうになった
「父上…私は…はこの方と出会ってから初めて…楽しく生きたいと思えたのです」
「・・・・・・・・」
「今まで私を使わなくたって 勢力拡大に成功していたじゃないですか…」
「お前は…母親似だな」
「……お元気で」
城を脱出してからは ひたすら走った
城の忍達が追ってくる事は無く 手懐けた鳩だけが私の後を追いかけていた
暫くして 利吉さんが足を止めた
「私はさんの辛そうな顔を見たくなかった…けれど貴方の姫という位置を私は」
「いえ 嬉しいです、もう姫なんて要りませんもの・・・ところで」
「ところで?」
「報酬が…未だ城内の私の部屋にあって…どうしましょう……」
「あぁ 報酬なんて要らないから」
「でもそれでは私の気が…っ」
「そのかわり、本当にさんを貰っていいかな」
地位も銭も要らない 貴方がいれば 私は、
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(08.7.2 あれだ…駆け落ちみたいなあれだ)