学園に着くと 俗に言うVIP待遇で私は迎えられた 一応 事情を知らない者達には「彼女は故郷に帰った」という事になっていたらしい だが 異国人だと暫く思われていただけある 噂は尾ひれを付けながら面白いように変化していたようだ… 「神隠しってどんな感じなんですか!?」 「いやあの神隠しではなく…故郷に帰っただけでして……」 「小松田さんが出門表にサインして貰ってないって大騒ぎだったんですよ」 「あー・・・それはただただ、申し訳無い」 「僕は 南蛮で貿易の仕事をしているって聞いたんですが…」 「誰よ適当にホラ吹いたのはぁ!そんな格好良い人生送ってないわよ」 「俺は 徹夜五日目の潮江先輩に猪と間違えられて食われたって」 「まさにバケモン!!…それ絶対誰か…愉快犯がわざと流した気がする…」 顔見知りだった 旧一年は組の生徒達から 暫く質問責めに遭った これなら這ってでも挨拶してから帰ればよかったな、と反省した瞬間だった 「ところで さんはどうして姿が全く変わってないんですか?」 「・・・アンチエイジング?」 「安置栄……何ですか、それ」 そして 学園に泊まらせていただいて はや一週間 一体いつになったら文次郎は来るのだろう 団蔵くんも不定期だと言っていたから こうなる事は予想していたが 一ヶ月このままなら 私は学園の正式な事務員になろう、そうしよう しかし 暇である 顔見知りも 五年前から在職している教職員と今の六年生のみ… 多くの生徒が私を不審そうに横目で見てくるのが よく分かる それでも こうして学園内を歩いているのは ・・・暇だからだ 「皆は今…どうしてるのかなぁ…やっぱり散り散りになってるよなぁ………」 現代と違って 電話が出来るわけでもないし 遠くへの移動に何十日も掛る 卒業したら二度と会わないかもしれないんだと考えると 切なくなった その時 団蔵くんが前方から駆けて来た 「さん!」 「なにー?…あぁ本当いい男になったねぇ若旦那…」 「そんな事より!」 「そんな事、で片付けられた!」 「潮江先輩が…来た」 潮江先輩が来た・・・そのフレーズが 脳内をぐるぐると回る 「・・・ええええどうしよう!」 「今更どうしようって言われても来ちゃいましたよ」 「うわぁぁ………覚悟、覚悟、覚悟…行ってくる…」 いざ 会うとなると緊張するものだ …五年の溝は 深いのか浅いのか 一歩一歩 ゆっくりと歩みを進める度に 足の震えが増す 私は 自分が思っていたよりも相当 過去の人間にされているかもしれない事を怖れている 学園の正門で入門表にサインしている 彼が居た 此方を向いて 少し驚いたような顔をした 「あ…お久しぶりです……まぁ私は一ヶ月ぶりなんだけどね…」 至 幸 文次郎が此方へ歩いてくる 手が届く範囲まで来た時 文次郎の右腕が私の顔の方へと伸びた 「えっ………いだっ!!」 抱き寄せられるのかと淡い期待を抱いていた私の額に 見事なデコピンが入った 「っつぅ〜……何よ突然!痛たた……」 「………………」 「…何で…黙ってるの…?」 足の震えが止まらない 「……遅いんだよ来るのが」 「年号とか分からないから…勘で来たのよ…五年の誤差は奇跡なの」 「………は…見た目が気持ち悪い位あの時のままだな」 「うん、私の方が年下になっちゃったね…そちらは益々お老けになられて……うわっ」 私の額に一撃を喰らわせたその掌が 今度は私の髪の毛を掻き乱した 「いつ文次郎が来るか分からないからって毎日ちゃんと整えてた髪が…」 「これが何だっけ…いい男のナントカってやつだろ?」 「相変わらず乱雑だけど…まぁ……覚えてたんだ」 「何度もの事を忘れようかと思ったけど、やっぱり駄目だった」 そう言うと文次郎が懐から何かを取り出した 「コイツが忘れるな忘れるなって五月蝿くてな・・・」 そこには 少し汚れている私の指輪があった 汚れや擦れた痕が 五年の歳月を物語っていた 「…持っててくれてたんだ」 「預かれって言ったのはお前だろ」 「ねぇ、その指輪さ…この指に入れて?」 私は左手薬指を右手で指差した 「何故こんな微妙な位置に…」 「薬指っていうのは特別な意味があるのよ」 「特別…?」 「簡単に言うと愛よね、愛!愛のしるし?みたいな」 「はぁ……お前そういうの好きだよな…俺にはさっぱり解らん」 薬指に嵌められた指輪を眺める 自分の指輪っていうのが何とも言えない所だが・・・充分だ 「は学園でまた寝泊まりしているのか」 「文次郎がたまに来るっていうから待たせてもらってたのよ、まだ来て一週間だけど」 「そうか・・・家に来るか?」 「・・・・・・ん?」 「家に来・・・二度も言わせるな」 気づいた時には 涙の所為で視界がぼやけていた 「…そういう事…言えるようになったんだね……」 「おっお前は俺を何だと…」 「女心を解っていない鍛練馬鹿だと」 「・・・・・・・・」 否定は出来ないようだ 「一応忍者だし 家に居ない事も多いが…それでも…いいなら」 「…その間 私がしおらしくアンタの帰りを待っててやろうじゃないの」 「何でそんなに偉そうなんだよ」 「懐かしいでしょ?このノリが」 「・・・懐かしすぎて俺もうっかり泣きそうになったぜ」 「泣けばいいのに」 きつくきつく 抱きしめられた これが…五年分の力なのね 痛い程に 此処が正門で 皆が私達の様子を眺めていたと気付くのは これから数分後の事だ 「…もう飴玉が無いから帰れないんだ」 「そしたらにまた不具合が起きたら…」 「一度同じ時代で不具合起こす位に長く滞在してたし、数十年はまず起こらない」 「・・・そうか」 「私は此処で生きるって決めたの」 「…それでいいのか?」 「一緒に…居てくれるでしょ…?」 私に生きる幸せをくれて ありがとう 五年間も私の事を待っていてくれて ありがとう 未来の私に教えてあげたい この選択は きっと間違っていなかった、って… 「お土産話が沢山あるのよ!未来の、老婆になった私に会ったりとかぁ…」 「俺なんて五年だぞ五年…簡単に説明しても五日は掛かるぞ」 「五日くらい……これからはずっと傍に…居れるから、さ!ゆっくり話しましょ」 (08.9.23 次回は同棲編です!…というのは冗談、完結です) 全30話のSFMですが、ここまで読んで戴いて本当にありがとうございました いやはやこんなに長くなるとはね…全くね… この話は私が去年からずっと書きたいなぁと温めていた話でした 満足に最後まで書けたのも、皆様に読んで戴いたお陰です さんと文次郎に、感謝! |