長編(Sci−Fi Mover!)の番外編です





「うわぁ……大根、御立派!」



畑の真ん中で 私は収穫した大根を天に向かって掲げた

農業に全くもって無縁だった私が こうして野菜作りに凝るようになった
しかも ミミズが居ても叫ばなくなった・・・これは大きく進歩したと言えよう


人生 何が起こるか分からないものだ



そう 本当に・・・何が起こるか分からない




この時代に根を下ろして はや数ヶ月
私の暮らしていた 元の時代…未来にはもう帰る事は出来ない

それでも この選択に悔いは一切無い


文明が進化した世の中に慣れ過ぎていた為に 最初は相当苦労したし 辛い思いもした
けれど 私はもう一人じゃないんだ



・・・と 言いたいのは山々なのだが



「文次郎めぇ……さっさと帰って来ーい!!」







Sci-Fi Mover AFTER!







「大根振り回して…どうしたの?」


私に向けられたその声に反応し 振り向くと



「あっ………仙蔵さん!?」

さんが戻って来たという話は本当だったんだな…」
「はい!かくかくしかじか有りましたが この度此方の時代に永住する事となりました」
「…永住?」
「私は此処で生きると決めました…私の居場所は未来ではない、此処です」

そう 胸を張って言った


「例の…何だっけ、不具合?あれは大丈夫?」
「一度この時代で不具合を起こしているので あと数十年は起こらないかと」
「そうか…ならよかった」

「とりあえず 家の中でゆっくり話しましょうよ!さぁどうぞどうぞ」













お茶を啜りながら 仙蔵さんと私は交互に色々な話をした


伊作くんの不運伝説から 恋愛の話まで 数ヶ月分…いや 五年以上分、話をした




「・・・しかし さんが変わっていなくて…安心したよ」
「…あの時と同じ、十八歳のままですよ?」
「いや、それもそうだが中身が変わっていないって事だよ……この五年で戦は増えてしまったから…」


そうだ これから更に 戦国乱世の時代になっていくんだ
私だって いつ戦に巻き込まれてもおかしくはない

その恐怖心は どうしても拭えない



「…ところで今更だが 家主は?」
「文次郎は今頃何処かで忍んでますー」
「任務か・・・仕方ないとはいえ 新妻に何日間も留守を任せるとは全く…」


私の手を優しく握り 仙蔵さんが微笑んだ


「寂しくなったら いつでも私を呼ぶがいい」

「…ど…どうやって呼ぶんですか……電話もメールも無いし…」
「心の中で強く念じていれば きっと想いが届く……筈だよ」
「そ…そうですか?」
「私は文次郎よりも 女心は理解しているつもりだ」



その時 かたり、と扉の動く音が耳に入った




「今 戻っ・・・・おぉ!?」


「あぁ〜…折角良い所だったのに文次郎が帰ってきちゃった」
「何だ仙蔵か、誰かと思……って 手!手を離せ!」
「…目敏い奴め」


仙蔵さんを私から引き離すと 文次郎が私の隣に腰を下ろした


のお気に入りの大根は収穫したのか?」
「…えぇ、記念すべき瞬間は私一人で迎えましたから!…ざまぁみろ」

文次郎が笑いながら 拗ねる私の頭にぽん、と手を乗せた

「あんまり家に居れなくて 悪いとは思ってる」
「・・・・別に 生きてりゃ何でもいいけどさ」



私の方が やはり子供じみているな…なんて 改めて思う
私の内面はあの頃から殆ど成長していないが 文次郎はあれから五歳も歳を取った

・・・学園に居候していた頃から 年上の私の方が子供じみていた気はしなくもないが





「…私はお邪魔なようだから 私は帰るとするよ」

そう呟いて 仙蔵さんが立ち上がった


「あぁ、帰れ帰れ」
「いつでも遊びに来てくださいね!」

さんがそう言うなら、また来るよ」



その瞬間 仙蔵さんの姿が消えた

さすが忍者・・・なんて 改めて感心してしまった







「…お前は隙があり過ぎる」
「隙?…そうかなぁ…初めて言われたけど」

「………今の城、辞めようかな」

「……はぁ!?…うわっ」


驚いた拍子に 足元に置いてあった桶を蹴り飛ばし ひっくり返してしまった


「桶ひっくり返しちゃったじゃない!」
「それはお前が勝手にひっくり返したんだろうが」
「だって急にそんな事言うから・・・無職とか銭が無くなるでしょうが、銭が」
「農家でも…」
「のうかぁ!?…そうか この時代だと農家やってる人も未来よりもっと沢山…いやしかし ねぇ…」

「いつもを一人にさせておくのは心配だし辛いんだよ、俺だってな」

「……そ…そういう事を言われると…さぁ………」

嬉しくなって 結局相手に従ってしまう、そんな自分が全くもって情けない



「……あっ、」

私は我ながらとても良い案を思いついた


「ねぇ文次郎、先生になれば?」

「…先生ぇ?」
「そう!完全に忍者としてのスキルを使わない生活っていうのも勿体無いしー」
「すきる…?とにかく 忍術学園の教師になるっていうのは意外と大変なんだが…」
「なぁに!何事も挑戦よ挑戦!…じゃあ私 事務員でもやろうかしら」
「思いつきでポンポンと発言していないか…?」
「やってみないと分からないじゃない」
「・・・・考えておく」


ふぅ、と息を吐いて文次郎が立ち上がり 肩を回した

「親父くさっ」
「大変なんだよ 忍ってヤツはな」
「・・・お疲れ様です」
「なんだよ 改まって」






未来の 私へ


背中を押してくれて本当にありがとう

私は 今 幸せだよ  だから安心して







「ところで 大根料理って何があるかな…?」
「…俺に訊くなよ!」










(08.10.20 片田舎でひたすら大根)