不気味かつ気持ち悪い光景が 俺の目の前に広がっている 「あらあら小鳥さん、愛いこと・・・ふふふ」 あのが 小鳥を愛でている しかも何だその台詞は……ふふふって何だその笑い方は 「気持ち悪くて堪らん、道化か何かか?」 「あら〜女子にそのような事を言うなんて 文次郎さんもまだまだね」 駄目だ、不気味だ 「苛々するから ふざけた言動はやめてくれ」 「…そんなに無理?」 「無理だ」 「…………上品なお姫様作戦は気色が悪い、という事ね」 外を眺めるの表情は 何処か変だ 「…何かあったのか?」 訊ねると よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの表情を見せた これは もしや面倒臭い事になるのではなかろうか・・・ 「私は仮にも姫という立場…でしょ?」 「一応…」 「姫って……忍者とお付き合いする事は出来るのかしら」 「・・・・はぁ?」 「なにその気の抜けた返事!ねぇ、行く行くは恋仲になれるのかしら」 何だかよく解らないが つまり何処ぞの忍に憧れているという事なのか? 忍なんて そうそう姫に謁見できる訳では無い …まさか この女は俺の事を 「それは…何処の忍で…」 「この前 縁談がおじゃんになったでしょ、其処の城に居た忍者の方がとても素敵で」 「・・・・・・・」 五秒前の浮かれている俺を土に埋めてやりたい 「その方、すっ転んだ私に真っ先に駆け寄ってくださったの」 「縁談先で転んだのかよ…」 「私 初対面なのにあんなに優しい方に会ったのは初めてだわ」 「あんまり優しいと忍としては……何だろう…俺の知り合いにも似たような奴が…」 「あら まさか知り合いだったりする!?そうそう、お名前を伺ったのよ」 「名前は!?まさか善法寺」 「伊作さん……あら、本当に知り合いなのね!」 「うわぁ」 駄目だ・・・伊作にこの女の手綱を引っ張れるとは到底思えない 俺ですら必死なんだから 「知り合いなら話は早いわ・・・彼を紹介しなさい」 「いやいや待て待て、あいつは止めておけ」 「どうして?」 「哀れなまでの不運だからだ」 そもそもに目をつけられた時点で 相変わらずの不運ぶりを発揮していると言えよう 「不運?…ふーん」 「それ、シャレか?」 「…そんなつもりはない!と…とにかく覗き見だけでも」 「覗き見?」 「文次郎、あんた忍者の端くれなんだから!ひっそり私を外に連れだす位 容易いでしょ」 「端くれって……というか 別に隠密行動しなくとも外出位出来るだろう?」 「相手先の城、私…出入禁止なのよね」 出入禁止って 一体どれだけの問題を起こしたんだ、この女は… 「まずはお友達から交際は始まるのよ!さぁ、私を誰にも見つからずにあの人のお側まで!」 あいつの不運に巻き込まれれば きっとも懲りるであろう 「しょうがねぇな…後で殿にバレたら 一応庇ってくれよ」 「わかってますって」 隠密に運んでいく為にを抱えあげると 子供のように騒ぎ始めた 「うわー何か変な気分…重くない?」 「日々の鍛錬の成果で この位は全然平気だ」 「ぎゃっ!尻触ったわね」 「ひっそりって言ったのはだろ!行かないなら行かないで別に俺は」 「…黙ってりゃあいいんでしょ、尻を触られても黙ってりゃあ」 「人聞きの悪い言い方をするな!」 ![]() 「相手は忍者、簡単に見つかるとは思えないわ」 城内に侵入した俺達は 誰にも見つからないように行動しながら伊作を捜した 俺はただでさえ大の女を一人抱えて此処まで来た だというのに こうして今も天井裏を這って移動している もうそろそろ 日が暮れるのではなかろうか… いくらなんでも腰が痛くなるってモンだ 「お前そんなに好きだったのか、伊作が」 「んー、素敵だとは思ったけれど まだ“好き”までは行っていないわ」 「・・・それなのに こんなに必死なのか!?…女というものは理解に苦しむ」 「優しい男性なら こんな私でも愛してくれるんじゃないかという夢を 私は追い求めているの」 如何して 愛に飢えてると言わんばかりの台詞を吐くんだ 殿をはじめ 数多の臣下に慕われているのに・・・贅沢なお姫様だ 「……居たわ!」 が板の隙間から下の様子を窺う 「おいおい 本当かよ…」 隙間から覗くと本当に 見覚えのある男の顔が目に入った 確かに 城内に居てもおかしくないかもしれない 伊作が外で忍らしい事をしている姿はあまり想像出来なかったからな 「で、これで満足か?」 「此処まで来たら あの方と会話がしたいわね…今ちょうど一人みたいだし」 「欲深いな…」 「・・・・・あ、目が合ったぁ」 がそう呟いた途端 此方に向かって下から苦無が飛んできた 「ひぃぃぃっ…!」 天井の一部が剥がれ落ちて 天井裏の埃の所為で薄汚れたが伊作の真横に落下した これはまずい、と 急いで俺もの許へと下りた 「曲者!」 「あー伊作、俺だ俺!」 「あれ、文次郎・・・何してるの」 「話すと長くなるが とりあえずこの城に何かを仕掛けるとかそういう事は考えてない」 「…隣の女性 何処かで」 「わ…私です!」 が着物の裾で必死に顔の汚れを拭っている 「・・・あ!出入禁止になったお姫様だ」 「そ…その通りです出入禁止の……はい」 「…そうだよ貴方 出入禁止なんじゃないか!何故此処に」 意外とは“言えない”女、らしい あわあわしているだけで 理由を言おうとしない 「先程の大きな物音は何事ぞ!」 「何事じゃ!…曲者か!!」 背後を振り返ると 城の臣下達が続々と槍を持って此方に向かって来ていた 「やべっ…伊作が天井落とすからだぞ!」 「天井裏を這うだなんて、曲者だと思うのが普通でしょうが!」 「それはそうだが…とにかくまずい 帰るぞ」 「えっまだ話足りな…」 「後ろを見ろ!悠長な事は言ってられんぞ」 此処で捕まったら 色々な意味で・・・終わる 必死にを抱えて 騒がしくなってしまった城を飛び出した 後は頼んだ、伊作・・・ 「文次郎、本当申し訳ない」 珍しく がしおらしくなった 「我儘言えば何でも聞いてもらえると思っている私自身が嫌だわ」 「そう言うのなら 直せばいい」 「…でも 急に素直な良い娘になったら不気味よね?」 「・・・我儘が言いたい時は 他人に迷惑かけない程度にな」 がクスクスと笑い始めた 「…なに笑ってんだよ」 「お父さんみたい」 「なら、お前はどら娘って所だな」 そういえば 殿はの祖父にあたる では の父上は何処に居るのだろう 居る気配が微塵も無いのだが 「・・・・疑問を抱いたって顔、してる」 が 俺の考えている事を全て見透かしているかのように そう呟いた 「私が物心ついた頃から 父上は居なかった……生きているけれども」 生きている、その言葉に少し安堵した 「じいちゃんと父上は昔から対立してるんだってさ…だから父上は何処か他の国に居るんだと思うわ」 「何処の国に居るか 知らないのか」 「敵って事だけは、知ってる・・・母上も父上の許に居るから 今は会えない」 殿がを異常に気にかけるのは きっとこういう背景も関係しているのだろう 「どら娘だけど、棄てないでね?私の事」 はシャレのつもりでそう言ったのだろうが 何処か哀しげな顔だった 「・・・棄てる気は無いから安心して暴れればいい」 (09.1.26 伊作「何をしに来たんだろう…あの二人は」) |