戦があるという事が当たり前で 戦の無い世の中を想像しろという方が難しい そもそも戦が無くなれば 戦う事によって自分を確立している武士達はどうなるのか 忍もそうだ、生き方を変えなければならない 戦は嫌だ そう思っている筈なのに 戦の中で結局は生きている俺達が居る しかし は首尾一貫している この世の中に辟易している彼女は 己を信じ 己の思うがままに生きようとする 戦場に赴く兵士達の後姿を は黙って見ていた 敵軍には 彼女の父親も居る 「私はただ 仲間の皆が生きて帰ってきてくれたらそれでいいの」 「…だが 相手は」 「お父様は敵将、それ以上でもそれ以下でも無いわ…別に平気よ?もう関係無い人だから」 護衛なら護衛らしく 余計な干渉をせずに黙って姫を護ればいい ・・・そう 割り切れないから 俺はいつまで経っても立派な忍になれないのだと自覚している 「文次郎は行きたくないの?戦場を暗躍するというか…仮にも忍でしょ?」 「おいおい…俺は此処で姫様の護衛を命じられているだろうが」 「……別に行ってもいいのに、私が許可するから」 「俺は 命じられているから仕方なく此処に居るという訳では無いぞ」 「…ふん、格好つけんな」 つくづく可愛げの無い人だ 「・・・ 何処に行くんだ?」 「厠よ!」 ![]() 暫くして が姫の間へと戻ってきた 酒を 抱えて―― 「・・・・日も暮れていないのに 酒盛か?」 「終わる気配の無い戦を憂いてばかりいるのは苦しいから 少し位許してちょうだい」 そう呟くと は咽喉を鳴らして酒を飲み始めた 孫娘を溺愛している殿には見せられない光景だ 「文次郎も飲む?」 「任務中なので結構」 「…薄々気付いてはいたけど、アンタって真面目だよね」 真面目という単語を 褒め言葉として使ってはいないようだ 「くぅーっ!酒はいいねぇ」 目の前に 若い女の皮を被った親父が居る―― ケラケラと笑いながら酒を流しこむその姿は 見てはいけないモノを見てしまった、そんな気分にさせる しかし 女子の割によく飲む・・・ 「…も色々と大変なんだな、酒に頼るとは…」 「お酒は私を裏切らないもの〜」 「飲み過ぎは体に悪いぞ」 酒を杯に注ぐ手が止まった 「……私は 私と同じ目線で話してくれる友達が欲しかった……寂しかった」 そう言うと はぼろぼろと涙を零しはじめた 笑って泣いて・・・どうやら酒癖があまりよくないようだ 「父上も母上も居なくなって…友達も居ないし……」 「…殿が…お祖父さんが居ただろ」 「“お殿様”だもの、ずっと一緒に居たら迷惑だわ…」 彼女は泣きながらも また酒を飲み始めた 「もう飲むのは止めとけって…」 「涙で酒を流すから平気です」 言っている意味がよく解らない これ以上酔っ払うと面倒なので 酒をから奪い取ると 物凄い眼で睨まれた 「私にこのような愚弄を働くのはお前だけだ」 「はいはい、ご無礼をお許し下さい」 「私の事を雑に扱うのもお前だけだ」 「はいはい、貴方が姫って柄じゃないもので」 の腕が すっと俺の首に回された このまま絞められるのか、と身構えたが 予想外の事態が起こった 「私が愛おしいと思うのもお前だけだ」 酒の香を纏ったに 抱きしめられていた ・・・笑って泣いて、その上 絡み酒か? 性質が悪いぞ 「ははっ…酔ってる時の科白じゃあな……」 酔いが醒めた頃には この事を全て忘れているのだろう 「…貴方は自分の立場を解っているのか?俺では駄目なんだよ 一線を越えた気持ちを持つのは」 護衛をする それ以上もそれ以下も許されない関係 「……“友達”だろ、俺達は」 には友達が必要だ 俺でよければ友達になんて いくらでもなってやる 悩み相談も どんと来いだ だが それより先に行ってはいけない 貴方は陽で生きるべき人間で 俺は陰で生きるべき人間だからだ (09.9.2 この頃の女性も酒好きが多かったらしい) |