平茸との同盟により 城の危機は脱した 今回、最大の功労者はであろう 「姫が居ないと寂しいな」 「居なくなって初めて分かる、あの騒がしさの心地良さ」 「しかし 姫が動かねばこの平穏も危うかったからなぁ」 そんな兵士達の会話を聞きながら天守閣を仰ぎ見る …勿論の姿は無い 「でも 次は平茸が危ないって噂だよな?」 「らしいな」 そう、俺達はこうして殿 そして城を守る事が出来た だが どうやら次の標的がの居る平茸城らしいとの情報があるのだ 此処と手を結んだばかりに 煽りを受けてしまったという訳なのか・・・ の事だ、城が襲撃されたとなれば 鎧兜を纏い 刀を携えて馬に跨りそうだ それを向こうの人達がよしとするかは分からないが ![]() 「あぁー 暇、本気で暇だ」 暇、という単語をひたすら呟きながら 畳の上をごろごろと転がる 何が楽しくてお姫様ごっこに勤しまなければならないのか 「はしたないですわ、姫様」 此処の女中は 私の事を内心見下している そりゃそうだろう、畳の上を転がる姫なんて品格の欠片も無い “おしとやかな姫”という 猫をかぶったまま過ごせたのはひと月…も持たなかった せめて自室に居る間は 素を出させてくれ という強い思いにより 私は転がっているのだ 「四六時中オヒメサマしてたら 息が詰まるわよ」 そう言うと 女中が苦笑した 「姫様は 奔放に生きてきたのですね」 …厭味にしか聞こえない科白だこと 「私は武術を学んできたわ、いざという時 私も殿を護れるようにね」 「…それは 兵士の役割では」 「一人でも戦える者が居た方が有利じゃなくて?」 私は 平茸の女中には悉く好かれていないようだ それを分かっているからこそ 私も厭味臭い言い方で応酬するのだ 「しかし 姫を護る為の兵士も必要となりますゆえ」 「私を護る為?そんなのこっちからお断りよ、ところで 次に危ないのは此処でしょ?」 士気の高くないこの城が襲われたら 五日以内に崩れるであろう 「戦の準備は出来ているのかしら?」 出来ていない、解っているが 私はそう呟いた 女中に言っても仕方ないけども 城内をぐるりと廻ってみる 覇気が感じられない・・・黴が生えそうだ 「、こんな所で何をしているんだ」 「…若様」 私の旦那様は女々しい、戦場に出たら真っ先にやられてしまうであろう かといって智謀があるのかと聞かれると それも少々怪しい 今の殿様が亡くなったらアンタが此処の大将なのよ、分かってる?と一度言ってやりたい位だ 「気安く外に出るもんじゃあない 危ないからな」 「私なら大丈夫です、暗器も常に忍ばせているし」 「姫が暗器なんぞ持たなくとも 護衛の者を用意すれば」 「必要無いわ」 護衛の者 ・・・私は文次郎がいいのだ しかし此処には居ない、ならば私は私自身で身を護るまで 「…はいつも遠くを見ているな…私を見てはくれぬのか」 「若様はまず城の状況を見るべきです、危機が迫っているのですよ?」 「それは殿に任せてある」 「ならば この覇気の無さを改善する為に何をすべきか考えてみては如何ですか」 「はおっかないなぁ…! おなごが眉間に皺を寄せているのは美しくないぞ」 「・・・・・・・・」 駄目だ、こりゃ 私は溜息を吐いた * * * 若様や女中の目を盗み 木によじ登った 城下を見渡せる一本の巨木、私が城内で最も好きなのがこの木だ 籠を背負って歩く農家のおばさん 日向ぼっこをする野良犬 此方をじっと窺う忍者 「・・・・ん!?」 不審な忍者をよくよく見てみると 見知った顔ではないか 「も…、」 一瞬にして 男は私の許まで飛んできた 「誰かと思いきや、姫様が相変わらず木登りかよ」 「……文次郎が…どうして此処に」 「任務の帰りだ、平茸の巨木に誰かよじ登ってるなと思って見てみたら案の定だった」 逢えて嬉しい、なんて言ってしまったら この木を降りられなくなってしまう 私の今居るべき所は 文次郎の傍ではなく 女々しい若様の傍なのだから 「お元気そうでなにより」 「わ、私はいつでも元気よ!」 「殿にを見かけたと報告しておくよ、きっと殿も喜ばれる」 「ええ、ありがと」 嬉しいのに どうして悲しいんだろう 「・・・・頼むから泣くなよ、辛いだろ」 ずっとずっと 我慢していたのに 今更涙が止まらないなんて 「私が好きなのは……なのに…どうしてこんな事になっちゃったんだろう」 「…それは が城ひとつ動かせる程の力を持っているからだ」 解っている、だから私は此処から逃げ出す事が出来ない じいちゃんの為に 仲間の皆の為に 私が踏ん張らなければいけないのに 泣き事を言って甘えている場合ではないのに 「この城も急襲されるかもしれないが 無事で居ろよ 」 「勿論…私はなんとしてでも生きる」 人は いつか死ぬ どうせ死ぬなら 幸せを噛締めてから死んでやる 「こんな所で 死んでたまるか」 生きていれば 一刻でも 文次郎に逢えるんだ たとえ 傍には居れなくとも 「そうそう、そうやって凛々しい顔してるのが一番だ」 (10.4.24 もう少し続きます) |