「りみっと?」 「そう、limit…徐々に時間移動の精度が落ちてくるのよ」 「なら 此処に毎日来るのは危険じゃないのか?」 兵助はあっけらかんと そう言った 「もう来ません」と言ったら「そうか、さようなら」で終わりそうな淡泊さである 私は彼ともう少し仲良くなりたいのだが それは一方的な思いなのか 「…じゃあ 来ない方がいいかなぁ?」 「の生活にも支障が出るなら そうした方がいいのかもな」 「うわぁ、予想通りの淡泊コメント」 絶対に 彼は私の事を好きではないと思う 嫌いでもないとは思うのだが… …その前に どうして私が彼の言動でいちいち一喜一憂しなければならないのか 07 arise 「兵助はさんの事を考えて言ってるだけだから…多分」 一連の事を話すと 雷蔵君はそう言った 「…でも ちょっと寂しいのが乙女心と言いますか」 「そうだなぁ 兵助って女の子に関心無さそうだもんね……あっ別に変な意味じゃなくて」 日々是勉強・・・そんな香りが 私から見ると彼には漂っている 私の数十倍 しっかりしているのは確実だ 「悪気が無いから性質が悪いというか……」 「まぁ そこはさんの腕の見せ所だと思いますよ」 「…笑顔でプレッシャー掛けるわね」 「こんにちは 噂のお嬢さん」 「うわっ」 何処からともなく雷蔵君のそっくりさんが突如姿を現した 「さん、私の顔に変装している三郎だよ」 「あら…近くで見ると 本当にそっくり 私の名前はよ、どうぞ宜しく」 三郎君は不思議そうな表情で 私の事を見ている もしや 朝食の海苔が歯に付いているのだろうか 「さんって……」 「は…はい…?」 「戦に係わりの無い生活を送ってた?」 この男、何気に鋭い―― 「そりゃあ貿易商の娘さんだからだろ?三郎」 雷蔵君 ナイス助け舟!と 思わず心の中で叫んだ だが 同時に嘘を吐いている事に 激しい背徳感に襲われる 「彼女、血腥い臭いが一切しない」 「そ…そんな私が此処に居るのは……やっぱり場違い?」 「確かに危険かもしれないが 人間 誰しも生まれた時は血腥くないんだ、別に場違いでは無いだろう?」 素顔を晒さずに生活しているなんて よほど変わった人なのか ・・・三郎君の事をそう思っていたのは 三秒前までの私 「貴方 素敵な人ね」 「でもさんは兵助が好きなんでしょ」 「……す…どうしてそうなるの!?」 「私も後ろで話を聞かせてもらったけど さんってアイツの事ばかり考えてるだろ、なぁ雷蔵」 雷蔵君が笑顔で頷いた 憎らしいまでに 柔和な微笑みだ 「…私 そんな風に意識した事は」 「気付かぬうちに 恋は始まっているのさ」 三郎君は そう言うと雷蔵君とは違った笑みを浮かべた この男 絶対に楽しんでいる… 気付かぬうちに 恋は始まっている――その言葉を反芻する 「……いやっ…でも仮に私が彼の事を好きだとしても 上手く行ったら不味いのよ」 何故なら 私はこの時代の人間ではないからだ 祖父は未来人である祖母と結婚したが 私はそれを 云わば禁忌だと思っている 私がこの時代に死ぬまで滞在する事も有り得ないし 彼を無理矢理こちらに連れてくる事は以ての外だ だから 時代を越えたハッピーエンドなんて無いの 「私の立場では 恋心を持ってはいけない」 ただ 時を旅する それだけの感情で居なければいけない やはり 深入りするべきではなかったのか・・・ 「身分の問題で貴方がそう言うのかは分からないけど 好きだと思う気持ちを我慢するのは間違ってると思うな」 「良い事言うねぇ流石は雷蔵! そうだよ、始める前から終わってどうするの?…運命に勝たなきゃ」 二人の その一言が ずしん、と胸に響いた 「お、三人で井戸端会議か?」 背後から聞こえたその声に 三人同時にどきりとしてしまった 「いっいつから居たんだ 兵助!」 雷蔵君の声が 軽くひっくり返った 「たった今だが…もしかして真面目な話してた?ごめんごめん」 ひとまず 一連の会話は聞いていないようだ 「あぁそうだ」 「うっ あっ何でしょうっ」 「学園に泊まれるかなって言ってただろ?部屋 先生に頼んで確保できたから」 そういえば 学園で寝起きが出来れば飛ぶ回数を減らせるのに、と 兵助に呟いていた事を思い出した 「あ…有難うございます…」 「何だそれ!今更 畏まるなよ」 己の顔が じわじわと紅潮していくのがよく分かる そんな私を 面白そうに眺めている三郎君と雷蔵君の顔が 視界に入った NEXT → (09.9.8 変に意識するようになっちゃったじゃないのよ) |