朝 何人かの談笑する声で 眠りの世界から現実へ連れ戻された 「・・・だから・・・で・・・」 「でしょ?・・・それでさ・・・・」 眠気眼で半身を起こした私は その光景を見るや 一瞬にして覚醒した この部屋には 四人の人間が居る 自分、文次郎、そして知らない男性二人 「あ…おはようございます」 そう言って 一人の男が申し訳なさそうに頭を下げた 彼のふわふわした茶色い髪の毛が揺れる 文次郎の他に人間が居るという状況が呑み込めないでいる私をよそに 時間は進む 「、すまん…伊作と留三郎が朝っぱらから押し掛けて来やがってな…」 「は…恥ずかしい……どうして起こしてくれなかったの」 「起こしたけど起きなかったんだろうが」 「・・・・・・・・・」 この時ばかりは 己の寝起きの悪さを呪った だが 服を着ていて心底良かった 黒髪の人と茶髪の人が 小声で会話をしている 「しっかし…俺は絶対嘘だと思ってたんだがな…」 「何が?」 「大学生になってから よりによって文次郎が半同棲をしているって話」 「僕も最初は仙蔵の狂言だと思ってたけど…本当に居たね、女の子…」 「しかもベッドで寝てるっていうのがリアルで嫌だぞ俺は」 「シッ!」 ・・・聞こえているよ、君達 しかし二人の会話に仙蔵という単語が出てきたという事は 彼らは高校以前の同級生なのか 流石は立花の一味、二人とも男前である 「ねぇ文次郎、お友達も居る事だし 邪魔になるから自分の部屋に戻るね」 「あれ?同じアパートなの?」 茶髪の人は 私に訊ねているようだ 「私は201号室に住んでるんです この部屋よりは綺麗よ」 「じゃあ どうしてさんは自分の部屋に呼ばないで汚い部屋に行くの?」 「おい伊作 俺の部屋はお前の部屋よりは汚くない」 彼は私の名前を知っているのか ・・・私は貴方が伊作さんか留ナントカさんか判らないのに 「……私 通われるより通いたい派でして…」 部屋が 静まり返った 恥ずかしいので 誰でもいいから声を発してください 「…暑苦しい野郎には勿体無い彼女だ」 「留三郎の言う通りだ!この世の不公平さに異を唱えたくて堪らないよ」 「お前等 何しに来たんだよ!帰れ!」 朝から 実に騒がしい人達である 「あぁそうださん、ケーキ食べます?」 黒髪の人が そう言って私に箱を差し出した 朝からケーキをチョイスするとは 彼らは相当タフな人種とみえる 「あ、俺が留三郎で コイツが伊作です」 なるほど 今 話しているのが名前の長い人か 「お気遣いありがとうございます、留さん」 「留さん!?」 三人が談笑しているのを ケーキを食べながら眺める しかし 何故この二人は突然現れたのか―― * * * バイト終了、辺りは夜の闇に包まれており 時計の針は9の文字を指している 我ながら 合鍵で103号室を慣れた手つきで開ける行為には笑ってしまう 非常に 良い気分だ ドアを開けると 玄関に置いてある靴が明らかに多い 嫌な予感がする、昨日と同じような事態が起こっている確率は相当高い 「お!?文次郎!あれが噂のちゃんか?」 「小平太…ちゃん付けを勝手にするな」 やはり また来ている・・・昨日とは違う男性が二人 騒がしい人と とても寡黙そうな人だ 昨日の二人とはまたタイプが違う 「文次郎さん、これはどういう事ですかね…」 「悪い…夕方 小平太と長次が突然押し掛けて来たんだよ」 此処は私の部屋ではないから 私がとやかく言うのは筋違いである だが 二日続けて来客となると 些か脳内がパニック状態だ 「昨日は伊作と留三郎が来たし 今日はお前達だ…どうしたんだ?」 文次郎も 同じ疑問を抱いていたようだ 「仙蔵が住所教えてくれたんだ!」 「ハァ!?やっぱり黒幕はアイツか…」 「…邪魔をしてこいと…言われた…」 「………何考えてるんだ、アイツ…」 頭を抱えている文次郎をよそに 騒がしい人と寡黙な人がピザを食べている 「ちゃんもピザ食べる?文次郎の奢りだよ」 「お前達が注文しろしろ騒ぐから 仕方なく奢ってやったんだろうが!」 床に転がる空箱を見るに どちらがどちらかは不明だが 小平太さんも長次さんも二人前は確実に食べている ・・・文次郎のお財布、ご愁傷様 「じゃあ ハワイアンピザでも戴こうかしら」 そう呟くと 寡黙な人が怪訝な顔をして此方を向いた ピザにパイナップルが乗っている事を許せないタイプなのね、きっと * * * インターホンが鳴る 勿論 此処は103号室 「毎晩よろしくやってるか?」 扉を開くと ここ二日の首謀犯である立花が 不敵な笑みを浮かべて立っていた 一言目からして最悪である そして我が物顔で部屋に入る 私も他人の事は言えないが 「一昨日も昨日も 貴方のお友達が訪ねて来たお陰で よろしくやってませんよ」 「それはそれは大変だなぁ」 「いけしゃあしゃあとよく言うよ…」 現在 文次郎は不在である 私一人で目の前のこの男を相手にするのは なかなか苦しい 一昨日と昨日の方々は なかなかの好青年であったが この立花という人物は厄介である 何故 好青年の方々ではなく 目の前に居る曲者が同じ学び舎に居るのであろうか 「楽しかっただろ?」 「…楽しかったけど…気を遣ったわ」 「お前達を邪魔する為に送った精鋭部隊だからな」 「………悪趣味ね…」 大学に入学した頃は 文次郎よりも その隣に居たこの男に興味があった 端整なお顔立ちに バイオリンが得意そうな物腰 是非ともお友達になりたい、そう願っていた時期が私にもあった しかし蓋を開けてみれば このような結果である 偶然同じアパートに住んでいた文次郎と仲良くなり 立花も想像と違う人物だと判明した まぁ、バイオリンを弾く優男より こういう厄介な男の方が面白いのだが 「お前達がまさか二年続くとは思わなかった」 「…私も吃驚だわ、気が合うみたい」 「初めのうちは は私の事を好いていると思ってたんだがな」 「…あら…随分な自惚れ屋ですこと」 危ない危ない これだから立花は苦手だ 「……いや…最初 文次郎なんて眼中に無かっただろ?」 無駄に 顔が近い 「あの、近いんですけど…」 「ときめかない?」 「ときめきませんから!」 その時 玄関の方から鞄が飛んできた 「仙蔵…俺の居ぬ間に何をしている」 「…文次郎 お前は本当に空気の読めない奴だな」 正直 助かった、空気読めてるよアナタ 「面白くない事に お前達って本当仲良いのな…二人して本気じゃないか」 「仙蔵は俺と違って 私生活の調子が悪いからな」 「…屈辱だ、文次郎だけには言われたくなかった」 「お前は本当に失礼な奴だな」 騒がしいけれど これが 私の生活 邪魔される事も多々あるが 何だかんだ楽しく過ごしている 103号室の鍵が 私の原動力 「ところで 面白そうだから私にも合鍵持たせてよ なんならあとの四人の分も…」 「今すぐ帰れ!」 103号の 鍵を忍ばせ、 (09.9.9 交際二周年=このサイトの運営期間とかぶせてるという訳で二周年です) |