※長編(Sci−Fi)の26話と27話の間のおはなし。


が未来へと帰った

抱きしめていた彼女の重みが あっさりと消えた
・・・本当に帰ってしまった、本当に俺の前から居なくなってしまったんだ


の居た場所には 未だ微かに彼女の熱が残っている
この熱が 本当に彼女が此処に存在していたという、証拠

そして もう一つ、“の証”が此処にある
俺の左手に握られている、彼女の指輪だ


「意地でも帰ってくるって…言われてもなぁ……」

水色の石が付いている指輪は 陽の光に照らされて煌々と輝いていた
本当に安物なのだろうか… 未来では安物だが この時代では貴重な素材で出来ているのか…


「・・・・・・・・」

との思い出が蘇る



いつものように 会計委員会に混じってあいつは算盤を弾いていた

俺達と同じくらいの速度で ぱちぱちと軽快に弾く
未来では算盤があまり使われなくなってしまったと聞いて驚いたものだ


「ふわぁぁ・・・・」

下級生が徐々に こくりこくりと船を漕ぎはじめた
徹夜しないと終わらないのだ、気合いで起きろ若者たちよ!


「潮江先輩…みんな潰れましたぁ…」

そう言う三木ヱ門も 瞼が随分重そうだ

「俺は全然眠くないんだがなー」
「ここ最近ずっと徹夜続きですよ?先輩と一緒にしないでください…ふわぁ…」

どいつもこいつも鍛錬が足りない、これは算盤を担いで学内をぐるぐる廻るしかないか――


「ちょっと文次郎、この子達に今から鍛錬させる気でしょ?」

…俺の思惑を が完全に当てた

「ダメ、ゼッタイ!」
「え、何故だ?」
「いいから…私がこの子達のぶんまで計算するから 起こさないであげて」

真剣な顔で頼まれてしまっては仕方ない…の言う通り 下級生達を寝かせたままにしておいた
一応俺も そこまで鬼ではない


「成長期にこんなに徹夜させたら 成長ホルモンに影響が出て 大きくなれないわ
 アンタねぇ、算盤担いで池に浸かったりしてるって伊作君に聞いたけど…バカでしょ」

どうやら 説教が始まってしまったようだ

「下級生のぶんまで頑張るんだろ?喋ってる暇あるのか」
「はぁ!?私だけじゃなくて、アンタも三人分くらいやりなさいよ?」
「おい 俺は下級生のぶんまでやるなんて一言も言ってねぇぞ」
「はぁ!?委員長なら思いやりの心を持ちなさいよこのバカタレ!」
「バカタレは余分だバカタレ!」

がぶん投げた座布団が 俺の顔面を直撃した

「…さぁさぁ、皆が起きちゃマズイから 静かに計算しましょ!」
「お前が言うな お前が」

ふふ、と微笑んだに 不覚にも動揺した
口は悪いし座布団も投げるくせに 時々可愛い表情を見せるから 困る

には 何だかんだ言っても敵わないんだと その時に思い知った





そんな事を思い出していたら 徐々に喪失感が薄れてきた


…あの女の事だ、地獄の底からでも這い上がって 此処に戻ってくるだろう
閻魔すら言い包める事が出来そうだからな

存在していなくとも 指輪によって俺を縛る・・・本当に敵わないな
預けられた指輪を 黙って懐にしまった


俺がいつまで の事を想っていられるかは分からない
指輪を持っているのが辛くなる時も来るかもしれない

でも お前は絶対に戻ってくるんだろ?


「待ってるぞ 


いつの間にか 涙が頬を伝っていた
我ながら男らしくないな… 泣き事を吐くのは 今日で終わりだ






Sci-Fi Mover! #26.5




(10.9.9 SFMを連載してたのは約2年前…早いですな)