また今年も この日がやって来たのか・・・








蝉時雨を聞きながら 実家の縁側に腰かけていた




「仙蔵!久し振りね」

向日葵の陰から 今年も彼女が現れた


、また今年も来たのか」
「一年に一回の楽しみだから 良いでしょ?」

そう言って が向日葵のような笑顔をみせた



は変わらないな…本当に」
「仙蔵は毎年ちょっとずつ変わるよね、美しく進化してて恐ろしいよ」
「それはどうも」

「…夏休みにしか会えないのは 辛いなぁ」


切なそうに空を見上げている彼女を見ていたら 私も切ない気持ちになった



「……そうだ、今年もお団子くれてありがとうね」
「あぁ 置いておいた団子な、今年は趣向を変えて蓬団子を買ってみた」
「最高!あっでもまだアレ貰ってないよ?」
「分かってる、後で渡すから落ち着け」


空を見上げていた表情から打って変わり また幸せそうに微笑んだ





は いつまでこうしているつもりなんだ?」


彼女が不思議そうな眼をして 此方を見てきた


「毎年、この今日という日をただ待っているのか」
「…私は この日になると此処に来る、ただそれだけだよ」



彼女も縁側に腰かけた


「いつの間にか 私が年上になってしまったな…」
「そうだね」
は私の事を毎年変化していると言った、が 四年前から何も変わってはいない」
「・・・・私こそ四年前から何も変わっていない」
「いつも この日を待ちながら生きている…のかもしれないな」
「・・・・・・・・・」

「この田舎は学園から遠くてな…夏しか来れないんだ」
「それは仕方ないよ」
「ただ 今年で卒業だ」
「そしたら 仙蔵はまた此処に戻ってくるの?」
「此処には住まない、流石に移動が大変だからな」

そう言った途端 彼女の表情が曇った



「ねぇ…私を置いていかないで…」


「…勝手に着いてくればいい」
「私がこの村より外には出られないって知ってるでしょう…」

は私を如何したいんだ?…私もお前の世界に行けと?」
「それは違う!…ただ……慕っているだけ」

「……私が死ぬまで 盂蘭盆になるとこんな事を続けるのか?……私は辛い」
「辛い…!?この日を待ちながら生きているって…言ったじゃない」


彼女が私の着物の袖を掴もうとするが 何も感じない

触れられないという事は どれだけ辛い事か



「好いているから 辛いんだ・・・なまじ こうして君の姿が見えてしまうから」


幽霊の類は全く見えないのに 彼女だけは見えてしまう
その意味は 何なのだろう



「・・・・私の事を忘れてほしくないから 私が見えるようにしている」
「…へぇ、そんな事出来るのか」
「忘れないでくれるなら 姿を現さない」
「私は…死んでもを忘れる事は無い、必ず」
「……その言葉…嬉しい限りよ」




彼女は立ち上がると ぼんやりと庭の向日葵を眺めていた



「じゃあ来年の夏は 此処には来るけど姿を現さないよ」
「・・・あぁ」

「でも…私と話したくなったら呼んでね? 縁側に座って…くだらない話でもしてさぁ…」




来年も 盂蘭盆になれば私も此処に来るだろう

吹っ切れないといけないと解りつつも またを呼んでしまうのだろうか



現に 今日だって縁側にじっと座って お前が来るのを待っていた







「無理して大人にならないでもいい……」



「・・・え?」

「何でもない、じゃあね」




「……、」


気づいた時には の姿はもう無かった








蜉蝣の如く、







墓前の前に 一輪の向日葵を手向けた


こうすると やけに喜ぶんだよな  毎年







(08.9.23 無理して離れなくてもいいんじゃないかな、ねぇ)