カランカラン・・・軽快な音がスーパーの入口で鳴り響いた 「おめでとうございます!二等当選〜!」 鐘を振り回す男性店員、何事かと此方を見る買い物客、そして当選した私 スーパーで毎晩惣菜を購入していたら抽選券が貯まったので 抽選をした どうせティッシュだろう…そう思っていた私がまさかの二等当選である 周囲の視線が恥ずかしい、さっさとこの茶番を終わらせてくれないか 「はい、どうぞ」 「……四泊五日 温泉街の旅…」 sinter* OVERDRIVE#1 私は、平々凡々な大学生である 「で、温泉街の旅にはいつ行く予定なの?」 現在隣に居るのは高校時代からの同級生・秋丸だ 「もうすぐ夏休みだから…あいつの予定を訊いてから決めるわ」 「あぁ榛名、元気?」 「知らなーい」 「…知らない?」 ペア、つまり 二人で行く為のチケット 誰と行こうかと考えた時 私はあいつの事を真っ先に思い浮かべた 「全然話に出てこないから 別れたのかと思ったけど…誘うって事はまだ続いてたんだ、良かった」 「…私達が俗に言う倦怠期という時期にある事は間違い無いと思う」 「高校卒業する時は 榛名に散々言われたな、とお前が何で同じ大学なんだーって」 「偶然なのにね!私達疑われたねーそういや…あの時の元希は可愛かったのに」 時間が経つにつれ 私達の関係は徐々に冷めたものになりつつあった 私は彼と別れたいなどと思った事は無く 好きだという気持ちは今も抱いている…多分 相手がどう思っているのかは 知らないけれど その時 携帯電話が鳴った 元希からのメールだ 本文には 都合の合う日にちが書かれていた 「あぁ秋丸…日にちが決まったよ」 「…随分淡泊なんだね」 「うん…これが最後の旅行になるかもしれないな、なーんちゃってね」 「……笑うに笑えないぞ、」 * * * こちら東京駅 案の定あいつは遅刻してきた 集合時刻をわざと早く言っておいて正解だった 「十五分、遅刻」 「…さぁ、一ヶ月振りに会ったのに一言目がそれ?」 「時間にルーズなのは良くないわよ」 「相変わらずうるせぇな〜お前は」 「…駅弁 二人分買っておいたから」 「……相変わらず 気が利くな…さんは」 二等と書かれた立派な封筒から 新幹線のチケットを取り出す 甘さもへったくれも無くなった私達が 蒸し暑い夏だというのに今から温泉街に行く なんて滑稽な物語なのでしょう 私の為に五日間の予定を空けてくれた元希には 些か感動している …もう そんな事もしてくれないような気がしていたから 「・・・あ、」 その時 私はある事に気付いてしまった 「何だ?」 「……温泉街の旅だけど…新幹線の往復チケットはあるけど…」 「………………」 「宿泊券が 無い」 「………は?」 流石 辺鄙なスーパーの二等賞といったところか どうやら 宿は自分で取ってね!という 不親切設計のようだ 私は 今の今までそれに気付かなかった ペア宿泊券だと勝手に認識していたのだ 「…」 「………はい」 「怒っていいか」 「…申し訳ありませんが此処は東京駅なので怒りをお鎮めください」 この人と 四泊五日も一緒に居られるのだろうか 一応“彼女”の筈だが 私にはその自信が殆ど無い …後で 肩を揉む事くらいはしようと思う NEXT → (09.4.15 お久しぶりの榛名連載です) |