「…何だかんだで着いたね!」 「日が暮れたけどな」 「・・・そうですね」 既に一日目が終わりを迎えようとしている 私と元希はとてもスイーツとはいえない、いわば辛子明太子のような雰囲気だ 若い男女二人が辛子明太子・・・我ながらこの関係は大丈夫なのか甚だ疑問である 「暗くなったし宿に……って… 宿予約して無かったんだよな」 「ごめんなさい」 「もういいから 探すぞ」 やはり この男は格好良い 仏頂面の横顔を眺めながら ふと思った 短気だけれど 時々喧しいけれど 高校生の頃から私は… 「元希…格好良いねアンタ」 「はいはい、知ってるから 早く歩け」 しかし 歩けど歩けど 宿は何処も「今晩の空きは無い」である 明後日以降の予約は取れるのだが 今晩と明晩が上手くいかない 「俺はさっき 見て見ぬ振りをしたが 一軒だけホテルを見つけた」 「……私だって見たわよ…高速道路沿いに妖しく光る」 「…ラブホ」 「風情が無いから嫌!」 「お前が宿を確保してなかったから 自業自得だろうが!」 「…それを言われると…何も言い返せないじゃないかー……」 私の思い描いていた旅行とは随分かけ離れていく気がするのは 気のせいでは無い筈だ 「、ホテルの風呂って温泉か?」 「知らないけど…多分違うと思うよ」 sinter* OVERDRIVE#2 一日目の夜から 何故このような場所に居るのか そう それは私が宿を予約し忘れたからである――自業自得だ 久方振りの 何とも言えぬこの雰囲気 静寂の部屋に響くシャワーの音 「……こんな場所 ご無沙汰すぎて緊張してきた」 落ち着かないのでベッドの上で腕立て伏せをしていたら 風呂上がりの元希と目が合った 「……お前…気合い入れ過ぎじゃね?」 「か…っ勘違いしないでよ!暇だっただけ!」 「別にナニの為の気合いとは言ってねぇだろ」 「・・・・・・」 いつかこの男をぎゃふんと言わせたいというのが 私のささやかな野望である 「ところで明日の事なんだけど……って 何処触ってるの!」 「…昔は自分から張り切って脱いでたくせに 何を今更この女は」 「それは……麻痺してたのかもしれない…けど今は」 その時 腹に気持ち良くない感触を感じた 「ちょっと…腹の肉つままないでよ」 「いや・・・お前、太った?」 「・・・・・・・・」 なんてデリカシーの無い男なのだろう 最近少し体重が増えた事を一番気にしているのは 私自身だというのに 「触らないで」 「…久し振りの割には元気無いなぁ、さん」 「腹の肉をつままれ引っ張られ……アンタの思い通りになってたまるか!」 私は 二つの枕を私と元希の間に置いた 「この枕より此方に入ってきたら 叩くから」 「お前 贅肉つまんだ程度でキレてんじゃねぇよ!」 「贅肉を見て見ぬ振りして 愛を囁く事くらいしてみたらどうなの?」 「愛を囁くだぁ?は俺に何を求めてんだ?」 何故 此処まで来て喧嘩しているのか 私にも解らない だが 生憎私も頑固だ たまには好きの一言でも言われたいと思ってしまう乙女心を理解していない この男が悪い 「吃驚する程 可愛げが無いな…お前」 「それは 私が一番分かってます」 一日目の夜から これだ やはり 旅行には女友達を誘うべきだったか・・・私は後悔しながら眠りについた NEXT → (09.5.25 後々もう少し真面目な話になる…はず) |