「おばちゃん、B定食ください」

「…あれ?貴方が夕飯に定食なんて珍しいわね」
「今日は疲れたので…お腹空いちゃって」



は食堂で一人黙々とB定食を食べていた

基本的に 七、八分程度で食事を済ませるのがのスタイルだ






蒲鉾を咥えた状態で がその声に反応し 顔を上げた

「んぐ…っ 立花さんじゃないですか」
「今日の“見返り”だ」
「ん…?いやっ見返りはほんの冗談でそんな気を遣わなくても…」
「私の事を名前で呼んで構わないぞ」
「………はぁ…?」

は思わず目を丸くした

「遠慮しなくていい、許可する」
「………それが見返り……食券一枚とかの方がまだタチが良かったわ」




そういえば昔は仙蔵って呼んでたのに…と ふとは思った
今なら あの頃の仲までは戻れないとしても 名前を呼ぶくらいなら



「…あぁぁ違う…私は仲良くなりたいなんて思っている訳では…」


は食器を片づけると 足早に食堂を出た
















「ねぇ、仙蔵」

「…俺は文次郎だが」
「知ってるわよ 練習してるだけ」



は お馴染み文次郎の部屋で 相変わらず文次郎の鍛錬の邪魔をしていた


「俺の部屋で仙蔵の単語を発していいのか?隣に筒抜けじゃ…」
「あー大丈夫大丈夫、さっき食堂に来たばかりだったから今頃夕飯でも食べてるわ」
「ならいいか・・・で?何を練習してるんだ」
「名前呼び」
「……昔 普通に名前で呼んでただろ?」
「それはそうなんだけど、暗黒期を挟んでる所為で 気まずいのよ」
「それなら無理して呼び方変えなくてもいいんじゃないのか」
「…売られた喧嘩は、買いたいのよ」
「……?」



自分でも 何故こうも本気になるのか・・・には解らなかった




「・・・お前達って プライドが高い所がそっくりだよな」


腕立て伏せをしている文次郎が 呟いた


「私って それほどプライド高くないと思うんだけど」
「二人共 心の何処かでお互いをライバルだと思っている節がある…と俺は思うが」
「……対抗心は無きにしも非ず、けど それは悪い事かな?」
「別に悪くはねぇけどよ…そういう壁があると 友達以上にはなれねぇぞ?」


少し間を置いてから が腕立て伏せに勤しむ文次郎の背中を叩いた


「…ってぇな!」

「私がいつ 立ば…仙蔵と友達以上になる事を望んだ!」
「いや……最近のお前を見てりゃあ 何となく分かるし…」
「遠い昔はそんな事を夢見てた時期も有ったけど…今は、無い…と思う」
「俺は面倒臭い事に巻き込まれたくないから いい加減お前等に落ち着いてもらいたい訳だ」
「・・・どういう意味で?」
「自分で考えろ」

「偉そうにー!」

そう叫んでは文次郎の部屋を出た




「・・・・あ」

「…あぁ」


部屋を出たは 食堂から戻って来た仙蔵と鉢合わせてしまった

明らかに仙蔵は嫌な顔をしている



「………あ、解った」

は 謎は全て解けた、と言わんばかりの顔を見せた


「はぁ…?」
「一時間後、立ば……仙蔵…さんの部屋に行きますから」
「……何をしに」
「お友達になろう!」

「…はぁ!?」







私は別に友達以上を望んでいる訳ではない
こんな関係 まだ友達にすら戻れていないんだから
せめて文次郎との関係のように 気軽に部屋に入れるような仲になれば

認めまいと思っていたが 結局の所 私はこの男ともっと親しくなりたいんだ
そんな私は きっとマゾね


そうよ それだけなのよ



ぎくしゃくしたくはない、誰だってそうでしょう?








接近しても

 いいですか?







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(08.11.23 友達作戦開始)