「お主は 夏休みは自宅に戻るのかね?」 仙蔵が 学園長に捕まった これは面倒臭い事を頼まれる雰囲気 だ・・・そう直感的に仙蔵は感じた 「…八月になったら戻るつもりですが」 「ならば丁度良い!七月中にこれをワシの知人に届けてほしいのじゃが」 そう言って学園長は 重そうな二つの紙袋を仙蔵に差し出した 「うわ……郵送すればいいじゃないですか」 「大事な物でな、手渡しじゃないといかんのじゃ」 「何故それを私に?」 「今日 一番最初にすれ違った六年生に頼もうと思ったまでだ」 「・・・・そうですか」 どうして不運な伊作ではなく私が学園長に会ってしまったのか…と 心の中で仙蔵が呟いた 「街の端っこまで行ってもらうからのぅ…それなりに平常点もプラスしておくぞ?」 「…いいですよ、やります」 「おお!礼を言うぞ!」 日頃から点数稼ぎに勤しんでいるヤツといえば あの女しか居ない 「喜べ、仕事だ」 仙蔵は 箒片手に窓の外を眺めていたに紙袋を差し出す 「…なに?この紙袋」 「残念ながら紙袋が二つある」 「………仕事って まさか片方の紙袋を持てって事?…うわ 重っ」 「ああ、話が早いな」 「えー…まぁいいけどさ…何処まで?職員室?それとも寮まで?」 「此処まで」 学園長に貰った地図を仙蔵が見せると は顔を引き攣らせた 「街の…向こうの………一日掛かりの仕事じゃない!面倒臭いよ!」 「夏休み中に行けって事だと・・・但し七月中までにな」 「ふぅん……あれ?家に帰らないの?」 「私は八月になったら帰る」 「あぁ一緒一緒、私も八月帰省組〜」 がさがさと紙袋を勝手に漁るを見つめながら 仙蔵は己に対する疑問を感じた 平常点をくれると言うから 私はを誘った しかし あいつの平常点なんて冷静に考えれば私の知った事ではない こういう事は 紙袋を持ちながら重いだの手が痛いだの騒ぎそうな女より 体力のある男の方が向いている 「…何で私はお前に頼んだんだろう?」 「私に訊くな!」 * * * 仙蔵が学園長に頼み事をされてから 一週間が経った 夏休みになり 寮内も徐々に生徒が少なくなっている 帰省する者、学園に留まる者…それぞれがそれぞれの夏休みを送る 「…お前は阿呆か?」 紙袋といえど 重い物を運ぶというのに はワンピースを着ている 「学園長のお知り合いの方に会うのならと思って、一応お嬢様っぽく…」 「その恰好で、重いからってガニ股で歩いたら みっともないだろうが」 「な…なによ!可愛いとかちょっとは褒められないわけ!?世の中にはギャップ萌えというモノが…」 「無茶を言うな」 「そこが仙蔵さんの敗因です」 「…私がいつ、誰に負けた」 「伊作は褒めてくれたのに」 「あいつは物好きだから・・・」 「もういいっ」 が普段と違う姿を見せた訳は 学園長の知人に会うという理由だけではなかった おつかいといえども、傍から見たらデートに見えない事もない そう考えた途端 は無性に顔が紅潮するのを感じた 語弊があるが 一夜を共に過ごしてからというもの の中で何かが変化していた 昔の気持ちが戻ったような・・・何だかよく解らない気持ちが 精一杯可愛く見せようと思った結果が 「お前は阿呆か」…だった訳だが 「ねぇ、バスまであと何分…?」 「あと五分」 寂れ気味のバス停のベンチに二人で腰掛ける 「蝉が五月蠅い」 「夏だから仕方ない」 「来ないねー」 「だから あと少しで来るから我慢しろ」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 二人だけの沈黙の時間が は苦しかった 苦しいというより 無性に緊張した は 真っ青な空を見上げながら バスが来るのを黙って待っていた 「、蚊」 「え?」 仙蔵が いい音を立てての腕を叩いた 「痛っ!…渾身の力で叩いたわね」 「蚊が居たから」 「いくら蚊が居たからって盛大に叩かなくても…ちょっとは女扱いしてくださいよ」 「…お前の事は 女だと思ってるが」 深い意味は無いのだろうが は仙蔵のその言葉が 無性に嬉しかった 「…バス、来ないね」 fell in love with you again NEXT → (08.12.8 冬なのに夏の話) |