「確かに受け取った、大川学園長に宜しくな」 「はい」 紙袋を渡し、と仙蔵は知人宅を出た その瞬間 じりじりと背中が焼けそうな勢いで 熱を感じる 山と街ではこうも温度が違うのか、と 二人は改めて思った 「あの親父〜アイスくらい出してもいいじゃない…そう思わない?」 駅前で貰った広告入りの団扇を扇ぎながら が仙蔵に同意を求めた 「麦茶だけでも有難く思え」 「そりゃそうだけどさぁ……あの人、富豪なんだからアイスくらいは学生に…たった二人なんだし」 「百歩譲って かき氷でもいいけどな」 「…やっぱり 貴方だって不満持ってたんじゃない」 「二時間半掛けて 麦茶を飲みに来たようなものだろう」 「………そう考えると暴れたくなるわ」 しかし 重い荷物が無くなっただけで 気持ちも少しは軽くなるものだ 「仙蔵さん、アイス奢ってほしいな〜」 「・・・・に、私が?」 「勿論よ!」 「随分上から目線だな」 「そもそも元々学園長に頼まれたのは私じゃないんですけど…?」 「…分かったよ」 「やったぁ!デパ地下のアイス、コーンのダブル!」 「……覚えてろよ」 私の隣で私が奢ったアイスを間抜け面で頬張る この女 以前まで避けられていたのが 嘘のようだ 「なに ぶつぶつ言ってるのよ」 「…ほう、は無駄に耳が良いんだな」 「間抜け面で悪かったね」 「………お前 本当に耳が良いな」 末恐ろしい女だ・・・、今度は心の中でそう呟いた 「安心して 私、過去に縛られるのは もうやめたの」 口の横にコーンのカスを付けたが 真面目な顔をして そう言った 「昔は昔、今は今……こうして貴方と普通に話す事が出来て 私は嬉しい」 「・・・お前らしくない事を言う」 「アイス奢ってもらったからね、ちょっとは素直になってみようと思ったまでよ」 そう言って にこりと微笑むと はまたアイスへ視線を戻した コーンのカスさえ付いていなければ 今のは破壊力抜群だったものを… * * * は いつの間にか暑さを感じなくなっていた アイスを食べたという事もあるかもしれないが 暑さなんかを気にしている精神状態ではなかった 徒歩、電車、バス・・・ 街を離れ 山の方へと戻っていく この時間が終らなければいいのに・・・はそんな事を黙想していた そして そんな事を考えている自分に 少し驚いた 「このバスはいつ乗っても貸切状態だな」 「…ちょっと、運転手に聞こえるよ」 「本人も分かってるだろ」 「・・・まぁね」 がたがたと 耳障りな程に山道の砂利が激しい音を響かせる 「仙蔵は何するの?…夏休み」 「適度に動いて、あとは寝る」 「ちょっとは受験とか何とか考えないの?」 「まあまあ考えてる」 「適当ね…私も適当だけどさ…」 ずっと一緒の空間に居たのに 今更近づけたなんて… 何をしているんだろ、私 は そう思って 溜息をついた 「…目を開けたまま寝るな、降りるぞ」 仙蔵が立ち上がった 「起きてます…ってもう着いたの?あっちょっ待ってよ!」 「おぉ、帰ってきたわい」 校舎の最上階の窓から学園長が 戻ってきた二人を確認した 「しかし 最初に頼んだのは潮江文次郎、お主だったのじゃが、何故立花に頼めと…面倒だったからか?」 学園長の斜め後ろから 文次郎も窓の外を眺めた 「いえ・・・こうなると思ったから」 「こうなる?」 「二人で行動させたら何かが変わると思ったまでです…まぁ色々ありまして」 文次郎は きっと仙蔵は俺達に頼むのではなく に頼むだろうと予想していた “平常点プラス”という単語で ルートに向けさせた・・・と言ったら 聞こえは悪いか? 学園長までをも操ったような、そんな気分で 正直気分が良い 「あいつら…此処に居ると絶対に俺を巻き込んで揉めやがるからな」 二人にさせて それでも素直にならずに今までと変わらずに揉めてばかりいたら・・・ その時は 俺はもう知らん 歳月人を待たず …歩むべし NEXT → (08.12.14 皆で過ごす最後の夏) |