食堂は夕飯時だというのに 座りたい席に自由に座れる程度の人数しか居ない は芋煮をつつきながら 文次郎と会話していた 「文次郎はいつ帰るの?実家」 「明後日だ」 「あぁ一緒、私も明後日!大安だからね」 「いや 帰省に大安も仏滅も関係無いだろ…」 「…昨日 街に行ってきてさ」 「仙蔵が学園長に頼まれたってヤツだろ」 よく知ってるね、と言わんばかりに目を丸くしているを横目で見ながら 文次郎が話を続ける 「ワンピースとか気合入れすぎだろ、お前」 「なに その笑いを堪えた顔は」 「別に笑ってねぇだろ」 「ふん…学園長の知人の方に会うから一応着て行ったまでよ…」 は文次郎に全てを見透かされているような気がして 何となく悔しかった 「…最近変わった、お前」 「変わった?そんな事は無いけど」 「仙蔵に対する態度が見ていて面白いんだよな」 「……た…楽しんでんじゃないわよ!こっちは自分の事すら解らなくて困ってんのよ!」 その大声に驚いた一部の生徒達が 二人の方を向いた 「声でけぇよ」 「それ 文次郎だけには言われたくない」 が最後の芋を口の中に放りこんだ 「…ふひなのはほひれひゃいにゃ」 「芋を口に入れたまま話すな、さっぱり分からん」 「……好きなのかもしれないなって言ったの、彼の事 あんなに嫌いだった筈なのになぁ」 「嫌いだったんじゃなくて 勝手にが避けてただけだろ」 「それは仙蔵に嫌いって言われたから…仕方ないじゃない」 「お前達って駄目な所も良い所もよく似てるよ」 「そりゃどうも・・・食器片付けてくる」 席を立ったと入れ替わるように 仙蔵が文次郎の前に現れた 「この席 空いてるか?」 「が、食器を今…」 ちらり、と 仙蔵が食堂の下膳口に目をやり 食器を片付けるの姿を確認した 「あの女め…この私が馬鹿高いアイスを奢らされる羽目になるとはな」 「仙蔵に奢らせたのか?ハハッもなかなかやるようになったんだな」 「学園長の知人の男が麦茶しか出さないからこんな事に…」 「昔々も 何だかんだ言ってに甘かったからな、お前」 「…過去にか?そんな事は無い」 「いや 有った」 昔の俺はそんなお前を見て 憎たらしくすら思えた、そう 心の中で続けた 「若かったよな、俺も仙蔵も」 「じじくさ…」 「ちょっと、誰が座っていいって言った」 「 もう戻ってきたのか」 「仙蔵はこれから夕飯?」 「学園祭の実行委員に勧誘されてたら 遅くなってしまった」 「…まさか やる気!?」 「面倒臭い…天地がひっくり返ってもやらないよ」 「・・・ですよね」 仙蔵の隣の席に が腰掛けた 正面の席に居た文次郎は 改めて その光景に違和感を感じた 違和感というより、慣れないというか あの事が起こる前は よくある光景だったのだが 「そういや お前はいつ帰るんだっけ」 文次郎が仙蔵に訊ねた 「無意味に此処に居ても金が飛ぶだけだしな、明日にした」 「明日!?」 反応したのはだった 「…何か 明日私に用事でもあるのか?」 「え?いやっ何も無いけど急だな〜みたいな…?へへ…」 「……あぁ なんだ、淋しいか?」 「…さっ!?淋しい訳無いでしょ、別にそんな事は…」 口を開けば開く程 墓穴を掘りそうだ、と は口を噤んだ 無意識のうちに 私は彼を求めているのだろうか 好意というのは なんて恐ろしいものなのだろう 「お茶 入れてくる」 の葛藤を知ってか知らずか 仙蔵は表情ひとつ変えずに 席を立った 小声が聞こえない程度の距離まで離れたのと同時に 文次郎がに話し掛けた 「なんなんだよ、お前乙女になってんじゃねぇよ気色悪いから」 「乙女になんてなってませんっ失礼ね」 二人は小声かつ早口で 話し続ける 「そんなに好きなら好きって言えよ」 「はぁ…!?そ…そんな簡単に言わないでよっていうか文次郎に言われたくない」 「お前もいちいち失礼だな!それはさておきバレバレなんだよの態度」 「じゃあどうすればいいのよ」 「・・・・・・・・」 「頭回転させなさいよ、会計委員長」 「他力本願かよ、自分の恋愛くらい自分で処理しろ」 「…確かにそうだけどさ…どうして毎回毎回上から目線なのよ」 「仲が良さそうだな」 背後からの声に と文次郎は思わずびくついた 氷の如き微笑を浮かべた仙蔵が 席に着いた 「私が居ない方がゆっくり喋れて、良いか?」 「めめめ滅相もございません!」 そう言って が思わず立ち上がった 「わたくし、見回りの仕事があるので此処らで失礼致しますっ」 立ち去るの背中を見つめながら 仙蔵が笑みを浮かべた 「昔からそうだな、私は蚊帳の外だ」 「…お前とがあんなんだったから仕方ない事だろ?」 「昔はさておき 結局今もだ…私に対するあいつの態度は余所余所しさが抜けない」 「それは、」 文次郎はその続きの言葉を一瞬言いかけたが 寸止めした この続きは本人が言ってこそ 意味のある言葉だから 「……仙蔵は の事は好きか?…嫌いじゃないって答えは無しで」 「……………わからん」 仙蔵が自室に戻って数分後 コンコン、と 誰かが彼の部屋の扉をノックした 「…誰だ?」 「私よ、私」 の声だと判り 仙蔵が扉を開く 「何だ」 「…明日は午後出発?」 「そうだが」 「正午になったら屋上に来て 校舎は施錠されてるから寮の屋上でいいわ」 「・・・屋上?」 「そういう事で、じゃ」 静かに 扉が閉まった 「なんなんだ・・・?」 正直 屋上という場所はあまり好きではないんだがな… そう思いながら 仙蔵はもう一度扉を開けた 既に廊下には の姿は無かった 真夏の恋 明日はどっちだ NEXT → (08.12.21 決闘だっ) |