祭好きの学園長のお陰で 学園祭の一週間前から学園全体がお祭りムードに包まれる

は この浮いた雰囲気を味わえるのも今年で最後か、と思うと 少し寂しいような 清々するような…
そんな気持ちになった




「ねぇ、のクラスは何をやるの?」

伊作が 廊下で出くわしたに訊ねた

「面倒臭がり屋が多いから…屋台だっけな?確か」
「なんで疑問形なの」
「居眠りしてる間に勝手に決まってたんだよね〜」
「相変わらず無関心だね…最後くらい楽しんだら?」
「鉢屋君の撮ってた写真しか楽しみが無いんだけど 一応適度に楽しむわ」
「写真って?」
「…あっ仙蔵の女装姿の写真は渡さないからねっ」
の物好き!……で、何それ」



「おい、伊作と立ち話している場合じゃないぞ」

そう言って 後ろから文次郎がの腕を掴んだ


「しまった捕われた!助けて伊作〜」
「逃げるな、も少しは仕事しろ」
「看板とか男子がやればいいでしょ?髪がペンキ臭くなる…」
「誰もお前の髪の匂いなんて嗅ぐか!」
「なにそれ酷い!よくも乙女心を踏み躙ってくれたわね」


連行されていくの背中を見つめながら 伊作が「頑張れ…」と 小さく呟いた













学園祭が近づくにつれ 放課後の拘束時間が増していく

なまじ寮に逃げ帰った所で 学園内なのですぐに見つかってしまう
は毎年 準備をしているふりをして この時間をやり過ごす




無駄に張り切る文次郎の背後で 大欠伸をしている仙蔵がの目に入った



「…暇そうね」

が声を掛けると 仙蔵はもう一度欠伸をした

「見返りがあれば燃えるんだが 見返りが無い事にはやる気が出ない」
「利己主義…私よりも酷いわね、もうちょっと熱くなる事無いの?」
「最近ひとつ 楽しみなら出来たな」
「…あら珍しい」
を見ていると面白い」

「…それは…喜んでいいんでしょうか…」
「喜んでおけ」


その瞬間に見せた彼の笑顔に は思わず握っていたペンキの刷毛を落とした

その音で が仕事をせずに立ち話をしている事を文次郎に気付かれてしまった



、また持ち場を離れてたな…でれでれしてる暇があったら塗れ!」
「あぁ〜もう何なの?何でそんなに熱くなれるの?」
「当然の事だ!あと仙蔵、お前も仕事しろ・・・でないと当日の売り子にするぞ」
「……の所為でとばっちりを食らってしまったじゃないか」





暫くして の携帯のバイブレーションが何度も呻り始めた

はじめは無視していただが 何度も何度も電話が掛かってくるので携帯を確認してみる



「今度は携帯か!お前って奴は」
「さっきから ずっと電話が掛かってくるのよ!気になるからちょっと廊下で電話してくる…」




廊下に出てから確認すると 母親からの着信であった
そうこうしているうちに また電話が掛かってきた

溜息をつきながら が電話に出る


「…何?」
「ああ!?生きてたのね!」
「はぁ……?」
「全然連絡くれないんだもの…心配になっちゃったわ」


そう言われてみれば 恋にかまけていて母に電話する事を怠っていた
母は心配性なので 定期的に連絡をしないと こういう面倒臭い事になるのだ
つい最近 里帰りしたばかりだというのに・・・


「忙しくて…」
「あぁ……やっぱり全寮制なんてには向いていなかったんだわ」
「…いやいや、母さんが向いていないだけで 私には相当向いていると思う」
「今からでも 地元の高校に編入する?」
「だからーあと半年で卒業するんだし、今は地元に戻るつもりはありません」
「卒業したら地元に居てくれるでしょうね」
「…それは大学の場所次第で」
にお婿さんが出来たとしても?」

「・・・はぁっ!?」



思わず出てしまったの大声に 教室に居た者達が一斉に廊下の方を向いた
流石の文次郎も この声には反応せざるをえなかった

「…仙蔵、ありゃあ何なんだ?」
「母さんとか言ってたから 母親と電話をしているようだが…苛々しているようだな」





電話を切ったが 教室に戻ってきた



「何か あったのか?」

仙蔵がに訊ねる


「母が勝手に 私と、誰か知らない男の縁談を結んだかもしれない」

周囲に聞こえぬよう が仙蔵にそう耳打ちした
これには流石の仙蔵も驚いた表情を見せた


「また話が随分大きい…」
「やりかねないとは思っていたけど まさかこんなに早く行動を起こされるとは…」
「お前も色々大変なんだな」
「…まぁ 明日明後日の話じゃないから、今はまだ大丈夫よ」


大丈夫、は 自分で自分にそう言い聞かせたが 心中穏やかではなかった

そして の隣に居る男の心中も








秋の夕日に

 溜息ひとつ







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(09.1.4 何の屋台をやるのかって、スタンダードに…やきそば)