三分前  二分前  一分前  三十秒前 ・・・・五 四 三 二 一


「ゼロ!正午になったよ〜私の当番終了!」

屋台の裏で は早々にエプロンを脱ぎさった

…お前ってやつは一秒たりとも余分に働きたくないんだな……」
「文次郎と私の違いは 積極性があるか無いか、よ」
「偉そうに言うな」
「あ、焼きそばください」
「お前 さっき食ってただろ?」
「これは私の昼飯じゃないわ」
「・・・あぁ 当番も入れずに延々と部屋で眠っているアイツか」







仙蔵に頼まれた昼飯を調達したは 寮に戻る前に ある所に寄った
校舎の最上階の一番端にある 学園祭実行委員の本部だ



本部に入ると 目の前の机に無造作にアルバムが置かれていた


「これが・・・噂の、」



今まで は実行委員会の本部になど入った事も無かった
だが 秘密裏に写真の取引が行われているという噂は耳にしていた

その写真というのが 半ば強制的に撮影されたレア写真の数々
ちなみに 写真に犯罪要素は一切無い



「案の定来ましたね、先輩」

衝立の奥から 三郎が顔を出した


「仙蔵様の女装写真を戴きに参りました」
「そこのアルバムに全ての写真が収められてますよ」
「いやぁ楽しみで楽しみで…どれどれ」


は 好奇心に胸躍らせながらアルバムを開いた

そこには 美しい風景写真から美男子の転倒している写真まで 色々な写真が並んでいた



「ねぇ鉢屋、転んでる写真とか誰が欲しがるのよ…」
「そういう嗜好を持った方も時々居るので 撮っておいて損は無いかと」
「マニアックねぇ・・・」



そして は遂に お目当ての写真を見つけた


「お…おおお……!仙蔵様ったら…お美しや……そこらの美少女より全然美しいわ!」
「…その写真、欲しいですか?」
「当たり前じゃない!」
「一枚三百円です」

一瞬の動きが停止した

「・・・さんびゃくえん!?ぼったくり!」
「屋台で焼きそばを売る事と何ら違わないですよ」
「全然違う!だいたい実行委員がそういう事していいわけ?」
「学園長も認めていますし、伝統ですから」
「適当なんだから…まぁいいわ、三百円払うわよ」


が 購入した写真を懐のポケットに入れた
その時 自分も写真を撮られていた事をふと思い出した


「ねえ、私の写真も此処に収められてるの?」
「あります」

アルバムの頁を捲ると 最後の頁に自分の写真が平然と収められていた
しかも 二枚・・・

「うーん 何だか恥ずかしいなぁ…自分で買い取る事も出来るのよね?」
「その写真は駄目です」
「…何で!?」
「その写真は既にキープされてる方が居るので」
「二枚とも?」
「はい」
「そんな物好き、誰…」
「それは言えませんよ」
「まぁいいか、素敵な写真も手に入れた事だし…じゃあね」


軽やかな足取りで 焼きそば片手にが委員会本部を出て行った






「…先輩、出て行きましたよ」

三郎のその声に反応し 衝立の奥からもうひとりが姿を見せた


「いやーまさかと此処に来る時間が微妙に被るとは思わなかったよ…隠してくれて有難う」

「相変わらずの不運っぷりですね 善法寺先輩」
の写真をキープしているのが僕だとバレたら 三日位は口利いてもらえないだろうからね」
「そんな先輩がキープしていたのは 立花先輩の女装写真ですがね」
「……うん、ね…物好きだよね……らしいけども…」

伊作がアルバムの中から 笑みを浮かべるの写真を抜き取った

「…ところで 僕の他にもの写真をキープしている人が居るみたいだけど…誰?」
「それは言えませんよ」
「…そうか」
「あ、一枚三百円です」
「・・・・・・」







*  *  *







「遅い、冷めるだろ」


部屋の戸を開くと 開口一番に仙蔵が呟いた


「…頼んでおいてその態度!?わざわざ貴方の部屋まで届けに来たんだから礼くらい欲しいわ」
「さっき が食べる為のおにぎりを食堂のおばちゃんに作ってくださるように頼んだのは私だろ」
「………そうでしたね」


机の上に焼きそばを置くと 溜息をつきながらがベッドに腰掛けた


「勝手に乗るな…あっこら寝そべるな」
「さっきまで当番だったのよ、あーちょっと疲れた…眠いかもー」

欠伸をしながらがごろごろと寝転がる
ひたすら焼きそばを生成する作業の疲れは予想以上だったらしく 数秒で眠気に襲われる


「・・・おい」
「…なんですかー」
「パンツ、見えてる」

「…おおっと!あらやだ私ったら」

が慌てて半身を起こした


「お前、ある程度親しい奴には男女関係無く無防備なんだろ…」
「そんなつもりは…ありませんけど」
「…いや 意外と抜けてるからな」
「これからは気をつけ・・・・痛っ」

仙蔵がの腕を掴むと 起きていたの半身を押し倒した


「う…上に乗らないでください…」
「…私以外の前で無防備になるな、いいな」
「・・・・はい」



は意外だった

まさかこの人に そんな事を言われるなんて夢にも思っていなかったから





「……何だ?これは」

仙蔵がのシャツの胸ポケットに入っていた写真を抜き取った

「…あっそれは駄目!あぁ〜返して!」
「写真?…って…………お前…これ……」
「・・・・し、幸せになれると噂の」

「・・・・・・・野暮用を思い出した、お前ちょっと此処で留守番してろ馬鹿」


そう言うと を置いて 急いで部屋を出て行ってしまった



「…馬鹿は余計よ!」








レンズの先の

 あなたに、










「鉢屋ぁ…」

不機嫌オーラ全開で仙蔵が向かった先は 実行委員会本部


「あぁ立花先輩、写真ですか?」

「何故あんなふざけた写真をあいつに売った」
「あぁ先輩……いやぁ凄く嬉しがってましたよ」
「そういう問題じゃない」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ…先輩が言ってた写真、キープしてたんですから」
「……ふーん、よく撮れたな、自然な笑顔なんて」
先輩って一瞬隙が出来るって言いますか…」
「…あぁ…やっぱり隙があるんだな…」





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(09.1.15 営業スマイルか自然な笑みか)