祭の後…非現実から現実に戻る瞬間に感じる虚無感に 学園全体が包まれている
もまたその一人であった




、先生が呼んでる」

呆けていたに文次郎が声を掛けた

「なんで?…まずい事やったかなぁ」
「親族が来ているそうだが」
「えぇ…?」





欠伸をしながら職員室に向かうと 其処には今一番会いたくないと思っていた人が立っていた





「・・・どうして母さんが此処に居るのよ」
「あら!久しぶり」
「いやいや…ちょっと待て……で、何故?」
の旦那様が決定したから もう家に帰っていいわよ」
「・・・・仰る意味がまるで理解出来ませんのですが」

母親は幸福そうな表情を浮かべながら に話しかける

「机上の勉強はもういいわ、いい奥さんになる為の勉強を…」
「…本当に相手が決まったっていうの?」
「だからそう言ってるじゃない」




は 仙蔵の事を頭に浮かべていた


そういえば付き合っているといっても 恋人らしい事を何もしていないじゃないか
このまま第三者の横槍で 関係が終わってしまうのか


「・・・冗談じゃない」



現実に虚無感を感じる事は 間違いだった
平穏な現実こそが 幸せである証拠だというのに



「私は学校を辞めない、会った事も無い野郎と結婚するつもりも毛頭無い」
、私だって貴方と同じように昔」
「貴方は貴方、私は私よ!…先生方にこれ以上迷惑を掛ける前に帰ってください」











昼休み中の教室には それほど生徒が居ない
各々が 学内の様々な場所に散っているからだ


教室では 文次郎が仙蔵に の事を話していた



「なるほどな…育ちは良いんだな、は」

「まぁ 話を聞いてると、お嬢様もなかなか大変そうだぞ」
「…ところでお前はどうしてそんなにの事を知っているんだ」
「仙蔵は何年もと話していなかったから仕方ないだろ…俺に怒るなよ」
「別に怒ってなどいない、自惚れるな阿呆」
「前々から思っていたが お前…短気だな」


その時 が教室に戻ってきた



ー、来てたのって母親か?」

文次郎がに訊いた


「うん……あぁもう面倒臭い事になってきた!」
「何をそんなにカリカリと…」
「私は家を恨むわ……結婚相手も選べないなんてふざけてる…私は悲しい」

気持ちを口に出すと 言霊が働いてしまうのか
悲しいのか情けないのか何なのか・・・は泣きだしそうな自分を必死に抑えた


「おい仙蔵、何か言ってやれよ」
「…こういう時は何と言えばいいのか私には」
「何でいきなりヘタレキャラになってるんだよ!」

ひそひそと話す二人をよそに は机に突っ伏したまま唸っていた


、断れないのか?」

仙蔵が声を掛けると 黙ったままは頷いた


「・・・いい度胸だな、堂々二股宣言」

「…私だって嫌だよ!でもどうすれば…うぁぁもう暴れたいっ」
「ばっ!仙蔵お前火に油注いでどうする!が泣いた!おっお前等とりあえず落ち着け…いや 俺が落ち着け」






*  *  *





「で、どうするんだ?」


夜 三人は寮内で作戦会議を開いた
昼休みでは 周りの生徒の目が気になって話し合いどころではなかったからだ


「ところで 俺って居る必要無いよな?」

ぼそりと文次郎が呟いた

「駄目っ仙蔵と私だけじゃ引っ掻きあいの喧嘩になりそう!」
「・・・それもそうだな」



「しかし 自分の意見は通らないのか?勝手に夫を決めるな、とか」

伊作から貰った煎餅を摘まみながら 仙蔵が口を開いた

「色々あるのよ…下手に相手を怒らせたら一族郎党 皆………なんて事になりかねないし」
「つまり面倒臭い状況な訳だな」
「文次郎、それは上手く纏めたつもりか?」


「ところでは仙蔵の事を母親に話した上で この先どうすればいいかを嘆いているんだよな?」
「え……っと…」
「…言ってないのか?」
「……言うタイミングが無かったの…さっきは職員室だったし…」

はぁ、と溜息をつく文次郎を見ると も溜息をついた


「・・・、なんとかなるだろう」

仙蔵が 彼らしからぬ言葉をに掛けた

「…根拠は」
「お前が反抗すればいい」
「反抗出来たらどんなに…」
「出来たらって してみた事無いだろ?まだ分からないじゃないか」
「……そんな事言われたって」
「私も頑張るからも頑張れ、いいな?…これは命令だ」


貴方が一体何を頑張るのよ
・・・そう は言いかけたが 止めておいた








戦いますか

 …逃げますか








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(09.1.24 逃げてばかりじゃ駄目なのかしら)