時間があると 色々な事を考えてしまう

平日は学校の授業に集中すればいいが 休日は暇故に考えたくない事を考える時間が増えてしまう


動かなければ何も変わらない
・・・考える事も変わらない






「…もしもし、私だけど」
「あら !」

朝から母親に電話を掛けると いつものように明るい声が聞こえてきた


「婚約の件だけど」
「あぁ!大丈夫よ着々と話は進んで」
「進ん…っ……あのですね…実は現在付き合ってる男性が居まして」

少しだけ 間が空いた
ほんの少しだけなのだが 私にとってその間はとても長く感じられた


「・・・その彼の事は、大切だと思う?」


母親の問に 一瞬戸惑ってしまった

そもそも私は大切にされているのか
想ってもらえている自信が…あまり無いよ、仙蔵


「私は 彼が居ないと…今は……辛い」

なんだか曖昧な答えだな・・・そう 我ながら思った



「ところで、明日 一度家に…」














「文次郎、仙蔵が何処に居るか知ってる?」


は文次郎の部屋に勝手に入って 唐突に訊ねた


「また勝手に入ってきやがって・・・まだ正午前だし寝てるんじゃないのか?」
「外出しているみたい」
「珍しいな、あいつが午前中から行動するなんて・・・麓のコンビニにでも行ってるのか」
「たまに活動的になるんだから……あの人って本当 居て欲しい時には居ないのよね」

「お前等ってあんまり変わらないよな、付き合っても付き合わなくても」
「……単刀直入に言ってくれるじゃない…私の一番の悩みをバッサリと」



文次郎のベッドにが勝手に腰掛けた時 学園祭の時の出来事がフラッシュバックした


もし あの時 私が胸ポケットに写真を入れていなかったら
あの先にどんな展開が待ち受けていたんだろう
押し倒された形で・・・それから



「…、涎垂れてるぞ」

「・・・・え?あららっお見苦しい映像を失礼致しました」


こんな時に不埒な事を考えている場合じゃない、と は涎を拭いた



「明日も日曜日だから休みでしょ?母親に一度家に戻って来いって言われちゃって」
「それは明日だけ…日帰りって事だよな?」
「うん、一応我が家まで片道二時間だから日帰り出来るし」

「…言ったんだな、付き合ってる奴が居るから〜って」
「……だから呼び出し食らったのかも」


大袈裟かもしれないが 明日で私の未来が決まると言っても過言ではない、そうは思った


は無駄に根性あるから大丈夫だろ」
「えぇ…?随分軽く言ってくれるじゃない」
「なんとかなるって」

「…アンタもその台詞ですか」







*  *  *







自分の家だというのに 門を潜る瞬間は緊張感を感じる


夏休みが終わり 学園に戻る時には 「次に此処に戻るのは冬休みか」…そう思っていた
なのに まさか秋のうちに この門を潜る事になるとは



ゆったりした動作で は玄関にて靴を脱いだ


父の靴は無いが 知らない男物の靴が丁寧に揃えて置いてあった
お相手の方だろうか、と は考えた


「あら! 帰ってたのね」

母親が箸を持ちながら 玄関に駆けてきた
どうやら昼食中だったようだ

「今 帰った所  ところで知らない人の靴があるんだけど」
「えぇ、お客様が来ているの・・・とても素敵な人で いい歳してときめいちゃったわ」
「ときめいちゃったって言われても……」




母親と共に は居間へと向かう

悩みの種であった縁談話の相手の顔を遂に拝むんだ・・・・は異常なまでの緊張に襲われた



そして 一歩 部屋に踏み入れたと同時に が言葉を発した

「初めまして、私が……」


の動きが止まった



「……なに 平然と玉子焼き食ってるのよ」


目の前で 此処に居る筈の無い男が此処に居る
しかも普通に食事をしている



「そうそう、彼が来てるわよ!とっても綺麗で礼儀正しいわね!」


「…仙蔵…何で貴方が私の家を知って……じゃなくて!何で此処に居るの!?」
「別にお前の縁談相手が私という訳では無いからな」
「そりゃそうだ……で、何で居るの?」
「…玉子焼きを食べに」
「・・・・・昨日から居ないと思ったら こんな所に居たとは」








未来を賭けて

 貴方と共に








 NEXT →

(09.2.4 玉子焼きに砂糖を入れるか否か)