「それで、此処にxを代入すると…ね?√3でしょ」 「・・・成程!」 休み時間 伊作がい組にやって来て に数学を教わっている 時々見受けられる光景だ 「これ覚えておけば 次の時間のテストもそこそこ大丈夫だと思うよ」 「流石は!ところでこの2番の問題って…」 「伊作、留三郎が大至急来いって言ってるぞ」 後ろから仙蔵が の隣に座っていた伊作にそう囁いた 「え?もー何だろう…じゃあ、ありがとうね!」 「いえいえ〜私でよければいつでも教えますよ」 走り去る伊作の背中を見つめながら が溜息を吐いた 「立花…食満が呼んでるってそれ、嘘でしょ」 「ああ」 「・・・・別に 貴方に迷惑掛けてないじゃない」 「無駄に にくっつきすぎだ」 「…はぁ!?……立花は私の何なのよ…父?姑?」 「・・・・・・・・」 「…何故そこで黙る」 は 頬杖をついて窓の外を眺めている仙蔵に視線を移した 何を考えているのか いまいち掴めない 試験で一位なんか取らなければ こんな事にはならなかったのか… それとも 他に何か・・・ しかし虫も殺さぬような綺麗な顔をしている 何も知らない下級生には随分人気のようだが それも頷ける見た目をしている 「……何か?」 「あっいや…別に……」 がそう言うと 仙蔵は視線をまた窓の外へと戻した 「…は二年生の頃の思い出とか…覚えているか?」 「え?また急な……んー…そう言われると二年の頃ってあんまり記憶が無いかも」 「………まあ 過去より未来が大事だしな」 「自分で訊いておいて それ?…確かに肝心なのは未来だけどさ」 「・・・あの時は…悪かったな」 「何が?……っわ!」 の頭をぽんと軽く叩くと 仙蔵は何処かへ行ってしまった 「……なんなのぉ…?」 いつものように 夜の寮内の六階渡り廊下にて は気だるそうに立っていた 片手には読みかけの恋愛小説 本でも読んでいないと やってられないからだ そんなの視界に いつもの男が映った はすぐさま駆け寄って 男の腕を掴む 「ねえ!文次郎は二年生の思い出って…何?」 「何だよ突然・・・二年…って二年!?」 「何故訊き返す…そう、二年よ!アンタの思い出でも私絡みでの思い出でも…」 文次郎は いつにも増して 一刻も早く部屋に戻りたいと思った 何故 がわざわざ忘れている過去を引っ張りださなければならない は自分で あの記憶を封印したというのに 「…可もなく不可も無く…だったんじゃないのか?俺もあまり覚えてない」 「そう…」 「そうそう…だから俺はそろそろ部屋に…」 「・・・・立花って私に何かしたの?」 文次郎は 何でもいいから今すぐに部屋に戻りたいと思った 今となっては あの事を思い出したとしても 単なる過去話として終わるかもしれない だが 正直これ以上文次郎は 仙蔵との揉め事に巻き込まれたくはない 「仙蔵が あの時は悪かったって言ったんだけど…“あの時”が全く分からない」 「…悪かった?あいつがそう言ったのか?……夢だろ、それ」 「本当だよ本当!私だって何が起きたのかさっぱり解らないけど…」 一応 “あの事”を 仙蔵は仙蔵なりに悪かったと思っているのか そう考えると 文次郎は無性に可笑しく思えた 「あいつも やっぱり人の子なんだな」 私の知らない 私の思い出 NEXT → (08.10.15 未来だよ、未来) |