鏡童女 II




何故 少女は私達の前に現れたのか

何故 私を名乗る者が目の前に居るのか




「私はね 、貴方に正しい選択をしてほしいから此処に居るの」


朝から張り切って畑を耕している文次郎を見つめながら 少女が呟いた

彼を見つめるその瞳は 到底少女の瞳とは思えないもので
・・・この子は本当に 私自身かもしれないと ふと思った


「…じゃあ その弐、貴方は間違った選択をしたって事?」
「その弐呼ばわり!?まぁいいけど…そうよ 大間違いだった」
「間違って毒茸を鍋に入れて食べちゃったとか?」
「私が…最後まで忍者を続けていたから……足を引っ張っちゃったわ、文次郎の」
「・・・・・・・」
「庇ってくれた…あんな時に 私の事なんて庇ってくれなくていいのに……馬鹿な男ね」




私の隣に居る“私”が  意地でも私の結末を変えたい理由が 解った



「貴方がこうして生きている私の前に現れるっていうのは 執念の為せる技かしら」
「…気付いたら 私の前に生きている私…が居たのよ」
「……貴方も死んだのね」

「…自分を責め続けていたら病んでしまったのよ……祈りながら死んだわ、もう一度やり直させて下さいって」


幼い声とは裏腹に 少女は全てに絶望したかのような表情を浮かべている
ああ、きっと私はそんな顔をしながら死んでいったのね



、最善の終焉を迎える選択肢を選ぶのよ……私を頼って」
「…今から終わりの事を考えるのは 何だか憂鬱だわ」
「失敗しない路を最初から歩めばいいの、私が…終焉まで導いてあげる」



こんなに おどろおどろしい少女 初めて見たわ


「…もう我慢ならん!文次郎に抱きついてくる!止めるなよ!」
「まぁ・・・別に小さい女の子の姿だし 止めないけど・・・」


少女は立ち上がったと思ったら あっという間に文次郎の許へと駆けていた



「うおっ!何だ急に」
「何年振りだろう……うぅ…」


抱きついたまま離れない
あれが私自身だと考えると 些か恥ずかしい光景だ


「おい、小さいが離れないんだが…」
「…寂しいんでしょ、大人しく捕まっててあげて」



少女の言っている事 全てが信じられるわけではない
少女が最期を迎えた後の私だという事だって 信じろと言われても夢物語のような感覚しか起こらない



「・・・・どうして泣いているんだ?に何か言われたのか?」


少女は声を上げて泣き続けている
私まで泣きそうなのは 何故だろう



「ぐすっ……文次郎が…土臭いから…」

か細い声で少女が呟いた








*  *  *








今の私は 幸せだ

こうして 幸せに暮らしている頃の私達をもう一度見る事が出来たのだから



どの属性になるのかといえば 私は幽霊の類になるのだろうか…

しかし不思議だ、私の執念というものは何処まで強いものだったのか



学園に居た頃から 少なからず周囲の人間の死というものには出くわしていた
でも 何処か現実味が無いような ・・・そういう事に慣れてしまっていただけかもしれない

兵士ならまだしも 闇に生きる忍者は 余程の失敗をしない限り死ぬ事なんて無いと思っていた……慢心だ


そう 実際に私は何度戦場に潜んでいようとも 死ななかった
一度だけ死にそうになったけど 救われた





「どうしてこんな状況で私なんか庇ったりするの!?」
「…解らない」
「………私の為に死ぬなんて 可笑しいと思わない?」
「ああ 可笑しいな、俺は大馬鹿者だ」

「そもそも 私達の関係自体が可笑しいのよね
 好きだなんだーお付き合いがなんだー…そんなもの全然無かったわ
 淡泊も甚だしい……時々不安になったものよ、この人 私の事どう思ってるのかって」


私は 私自身が不思議だった
こんな状況で 何故饒舌になっているのか




「…俺が命張って守ろうとするのは だけだ」








そこから 私の時間は止まってしまった






右に行ったら行き止まりだった
なら 分岐点まで戻って 左に行けばいい

何度だってやり直す

絶望するのはもう嫌だ






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(09.3.29 ドッペルゲンガー)