鏡童女 III 少女…いや 私が何故 私達の前に現れたのか―― その理由を知ってから ひと月が経った 最近 文次郎はとても忙しそうだ 忍の立場からしてみれば 私はあくまでも他人、忙しい理由など分からない 恐らく 近々大きな戦があるのだろうが 「…残念だったわね、最近この家には私しか居ないから」 「そうね…自分と話していても そんなに楽しくないもの」 少女の姿で言われると 余計に小生意気に思える 一体いつ 私はこんなに鼻につくような人格を形成したのだろうか 「まぁいいのよ、はしゃしゃり出ないで家で大人しくしてれば」 「しゃしゃり出た所為で 貴方は大失敗したものね」 「貴方って本当憎らしい女」 「いやいや、私は貴方でしょ?おチビちゃん」 「おチビ!?一応人生の先輩だからね 私」 退屈だ 全くもって退屈だ その弐と口喧嘩をする事と 野菜を育てる事くらいしか する事が無い 忙しい人も居れば 私のように何となく一日一日を淡々と過ごす人も居る 誰かの為に何かをする事も無くこうしている事が 何だかもどかしい 「暇だし 山菜採りに行ってくるわ…」 外に出ようとした私の腕を 少女が掴んだ 「…なに?」 「ちょっと、山菜と一緒に任務まで拾ってこないでしょうねぇ」 「あ…あれは緊急事態だったのよ!山菜だけ拾ってくるわよ!」 お前は少女の面をした姑か、と言おうとしたが 相手は私自身なので止めておいた 哀しきかな……私にあのような喧しい一面が有ったとは… * * * 山菜を採りに行くと言って 家を出たが 生憎私は行動派だ 人が沢山居る所に行きたくなるのは 心の何処かにある寂しさが疼いているからだろうか 賑やかな場所は私を元気にしてくれる 忍や雑兵達が自然と集まる場所があった 一見 ただの溜まり場のように見える 其処に居る人間が敵か味方は分からないが 其処に居る時はそんな事すら考えないので問題は無い 私は時々其処に立ち寄っていた 顔や名前が知れているような 立派な忍ではないのでね 「おっ久しぶりだなぁちゃん!」 目の前に居るのは 七松小平太 この場所には時々出没するらしく 私も過去に二度 この場で鉢合わせている 「今 休業中なもんで」 「好戦的なちゃんが休業中?…ハハッ」 「いや ハハッて…本当本当、自粛してるんだって」 「あ、もしかして 子供が出来たとか!?」 「それはまだ無い」 「…まだ…って…旦那さん居るの!?男勝りだったあのちゃんが…!?」 彼は立花と違って 私と文次郎の事には全く気付いていなかった様子だ しかし 何とまぁ失敬な言い回しだこと 「……一応…私も年頃ですから」 「きっと優しい人なんだろうな〜 物静かに犬を撫でていそう」 「え…なにその想像……いや…暑苦しい感じの…男ですよ…」 「文次郎みたいな人だな!」 「あぁっそう そんな感じ…あははは」 別に隠さなくてもいいのだが そこは…照れ臭いのでバレるまで黙っておく事にする 「別に子持ちじゃないなら 仕事再開してアレに参加すんだろ?」 七松が猫と戯れながら そう言った …その猫 いつもの黒猫ではないか いつから此処に居たんだ 「…アレって何?」 「戦、数十年に一度の規模になるんじゃないかって言われてるだろ」 やはり 戦が近いのか 「……そんなに大規模なの…」 「あっ旦那さんって戦に関わりの無い人なんだ 忍の間じゃあ今はこの話題で持ちきりだからな」 「…最近 戦が増えたわね」 「そうだなぁ……これから益々忙しくなりそうだよ」 文次郎も だから最近帰ってこないのか 私だって忍の端くれだというのに 吃驚する程に蚊帳の外だ 「…ねぇ どうすれば人々を助けられるんだろう…誰も傷つけずに」 「ちゃんらしくないなぁ、敵を傷つけないと味方は護れないよ」 「敵にとって 私達が敵なんだよね」 「そりゃそうだ」 「……味方の無事を祈る事しか 今の私には」 のこのこと戦場に出てしまったら 少女の姿をした私の二の舞になってしまう筈だ 私は 最初から護られていればいい 夕飯の支度をして 黙って主の帰りを待てばいい 私が私の前に現れたのは 全て この選択肢を選ばせる為 「ちゃん 随分変わったね」 「…そう?」 「護られる前に私が皆を護ってやる!って感じだったのに…大人になったって事かな」 「そうだったっけ…そういえば……」 多分 私の考え方は 何も変わってはいないよ NEXT → (09.4.7 自宅待機) |