黒の戦場 I




「屍の道が出来てる…」

数多の兵士が命を落としてまで やらねばならぬ事があるのだろうか
こんな時代は いつまで続くのだろう



「…がどうしてもって言うから許可したが 俺は」
「分かってる分かってる、快く思ってないんでしょ」
「お前の落ち着きの無さは異常だな」
「…色々あるのよ…私にだって」


自分だけ逃げようだなんて 思えなかった 思いたくもなかった


「もし…私が危なくなっていても 庇わなくていいからね」
を庇う余裕なんざ 俺には無いから安心しろ」

「……その時になってみないと 己の行動なんて予想出来ないものよ」
「…随分 自信家だな」


少女の姿をした私だって まさか庇ってもらうなんて予想していなかっただろう


「何でもいいけど、絶対 ヤバそうな事に首突っ込むんじゃねぇぞ」
「分かってる!突っ込まないってば……敵軍の位置を確認するだけでしょ?行ってきます」









闇に潜みながら前進していく

夜の戦場独特の雰囲気が 身体へと徐々に流れ込む




昔は この雰囲気が大嫌いだった
夜間訓練が一番嫌いで 「こんなの男子だけやればいいじゃない」なんて駄々をこねて…

だが 高学年のくのたまは数少なく 野外の訓練となると男子と合同になる事も多々あった


立花と行動を共にする事になった時は 普段の二、三倍 緊張していた事を思い出した
今思えば 緊張というよりも期待、といった感じだったが

そういえば文次郎に「お前 仙蔵と一緒だからって浮かれてるだろ…」と何度か言われた

…あの男、寛大なのか 何なのか
私達は本当によく分からない関係だった


いつの間に お互いが居るという事が当たり前になっていて
好きだとか、そんな感情を超えた何かで繋がっているんだと思っていた
根拠は 無いけれど






そんな過去を思い出しながら 私は駆けていた



あの頃は楽しかった

今は・・・・平穏な生活を送れるのなら 今だってきっと楽しいと思える筈だ


この戦を乗り越えて 私達は 生きて必ず



「…あの頃みたく 毎日笑っていたいのに」








*  *  *








敵は動きを止め 様子を窺っているようであった
だが 敵兵ないし敵忍が近くに潜んでいるかもしれない、油断は禁物だ



「そういう事で 陽が昇ったら総攻撃に気をつけた方が良さそう」
「ああ…」


ちらりと文次郎の右足に視点を移すと 引き摺っている様が痛々しかった

「足、平気?」
が俺の右足になるんだろ」
「そうだけどさ……痛いでしょうに」
「…お前は他人の心配をする前に 自分の身の安全を考えろ」
「……他人じゃないよ…」


まずい、涙が零れそうだ
こんな状況だというのに 私は・・・・


「………私は…アンタが居ないと」




その時 がさ、という草の擦れる音と共に 人の気配を感じた

一気に 全身に緊張感が走る



「・・・あっ」

姿を現したのは 幼い二人の兄妹だった


「…貴方達 こんな所にどうして」

声を掛けるも 二人は固まったままである
そうか 私達に怯えているのか


「あ…大丈夫よ、貴方達には何もしないから安心して!…で 何故此処に居るの」

「……わ…わからない…僕達はずっと二人で…歩いて……そしたら森が…燃えてて…」


恐らく 戦場に孤児が迷い込んでしまったのだろう
子供が此処に居ては危険すぎる


「…とにかく安全な所に…あぁあの村長なら…でも隣村までこの子達だけでは……」

ちらりと文次郎を見ると 頭を抱えて溜息を吐いた
・・・私の思考が 読めたようだ


は 昔からそうだった」
「貴方は甘すぎる…シナ先生にもよく言われた」


不安げな幼き兄妹を 置き去りにする事が出来ようか



「・・・あーあ、私 生まれてくる時代を間違えた気がするわ」






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(09.4.26 情か非情か)