生路を往く




髑髏の女が私の前に現れてから一週間が経った

実際 ある城から依頼が来たが 私は断った
あの女を一度信じてみよう、そう思った故の行動である


戦いから離れ 野菜作りに没頭する日々
気持ちが以前より穏やかになっている気はする






忍者休業中の隙に 暗器を研いでもらおうと鍛冶屋に行った所 懐かしい男と再会した


「…さては食満だな、その顔は!」
「……おお!くの一教室で一番恐いと評判だっただ!」
「一言余計よ」





鍛冶屋で立話するわけにはいかないので 私達は茶屋に向かう事にした


「久しぶりに会ったからな、今日はこの俺がさんに団子でも奢ろうか」
「おっ!粋な気配りをありがとう」


隣に並んで歩いていると 心成しか彼の背が伸びているような気がした

・・・そうか、一年以上も会っていないと 少なからず皆は変わっているのね
そう思うと 少しだけ距離が離れてしまったような感じがして切なく思えた






、俺は嫌な噂を聞いたんだ」

茶屋に着くなり 神妙な面持ちで食満が呟いた

「なに?学園関係?それとも…戦?」
「お前が…某暑苦しい男と一緒に住んでいるという風の噂を……」
「………あぁ…それか……どのような経緯を経て噂というものは広まるのかしら」
「だよな!噂って不思議だよな〜脈絡の無い噂なんて誰が考えるんだろうな!」
「…さっきから 食満は私をって呼んでるけど もう潮江だから」
「うん…………え?」
「噂もツメが甘いわね…ただ一緒に住んでるだけじゃなくて、既に…」
「・・・・・・・・・・・」
「すいません・・・・・って何で謝ってるんだ私」
「…俺は お前の事をと呼び続ける、いいな?」
「……いや…別にそれはいいけど……頑なに認めようとしない気持ちは伝わったわ」



私が団子を頬張っていると 食満がまたもや呟いた

「俺は 人妻には奢らない主義だ」

「・・・さっき奢ってやるって言ったじゃない!」
「潮江なんて奴に奢ってたまるか!」
「全国の潮江さんに謝れ!」


奢ってもらえるからと 一番高い団子を注文してしまったではないか
悔しさを込めた瞳で睨むと 視線を逸らされた



「……あ、そうだ…食満は知ってる?近々大きい戦があるとか何とか…」

「大きい戦?…あー始まりそうな雰囲気はあるかもしれない」
「そうなんだ…」
「陰で 忍狩りが行われたって話はある」
「・・・忍狩り?」


周囲に聞こえないよう 食満が私に耳打ちした



「・・・・・なんですって!?」


私に依頼をくれた城に雇われていた忍者達が 忍狩りに遭ったというのだ

「私…其処から依頼は来たんだけど 断ってたの」
「運が良かったな、徹底的にやられたらしいから」
「酷い……」


もし 私が引き受けていたら 私も巻き込まれていたんだ

そう考えたら 身体が震えた


あの女は 本当に私の事を・・・・・




「よく断ったな、報酬も良かっただろうに…」
「…幽霊みたいな女が 断れって私に助言してくれたから」
「幽霊?…随分親切なお化けだな」
「私もよく分からないわ……幻なのかも 何なのかも…」









二人で茶屋を出ると 一匹の猫が道のど真ん中で寝そべっていた


「真っ黒な猫」


私はそっと黒猫を撫でてみるが 嫌そうな素ぶりは見せない
どうやら人懐こいようだ


「じゃ 俺はここで」
「うん、また偶然会ったらお茶でもしましょ」

「…同学年の皆で会えたらいいな」
「ええ…生きてるうちにね」





去っていく食満の背中を眼で追いながら 黒猫をそっと撫でた


「貴方もこんな所で寝転がってると 気づいた時にはあちらの世界よ」

にゃあ、と鳴くと 黒猫はむくりと起き上がり 細い路地裏へと消えていった









髑髏の女は 今何処に居るのだろうか



「…貴方は私の味方なのね……ありがとう」


木々の生茂る森に向かって 私は頭を下げた






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(09.2.17 肝心の彼が出ずに終わってしまったっ)