敵陣潜入 I 朝 家の中には私一人と猫一匹 「…あれぇ…もう行っちゃったのか……」 私は文次郎が出て行った事にまるで気が付かず 眠りこけていたようだ …駄目な妻だと 誰かに罵ってほしい 今日もまた 野菜を育てて 適当に食事をして 一日を終わらせる そう 平凡で退屈な日を過ごす予定だったのに 「私 非の無い人間が死んでいくのはもう見たくないの」 「それは解るが…だからといって危険な賭けをする事に私は賛成しない」 「立花がやらないのなら 私一人でやるまでよ」 立花が 呆れの意味を込めた溜息を吐いた 目と鼻の先に敵軍の本陣が置かれている この闇夜なら うまく潜りこめるだろう 「・・・私も行く、もしに何かあったら 後で私も殺されそうだからな」 * * * 昼食用の山菜を採りに 山までひと走りした 風が とても心地よい 山は 心地よい風を 妖しげなものに変化させる 木々が風で擦れるこの音は どうも落ち着かない 山菜を摘んでいる“農民”の私を 誰かが見ている こいつは何者だ、そんな視線を私は感じた ・・・きっと相手は忍だ 「誰?」 常備している手裏剣を 巨木に向けて投げた 「…女、ただの農民じゃないな」 「………あれ?…ちょっと待った」 隠れていた男は 何処となく懐かしい感じがする この雰囲気 そして声は・・・ 「…あ!立花?ねぇ貴方そうでしょ!」 「……か!?久しぶりだな、お前も農民のふりをして偵察か?」 「偵察?…山菜を採りにきた ただの農民だけど」 「…忍は」 「今は休業中、何処と何処が戦うだの何だのって…すっかり疎くなっちゃって」 またこの近くで何か戦闘が行われるのか ・・・つくづく 嫌になる時勢だ 「ところで偵察って何?」 「近々 攻め入る進路として邪魔になるこの村を焼こうと画策する勢力が・・・」 「まさかそれに加担してるんじゃ」 「逆だ 逆、阻止する為に色々考えててな」 村を殲滅させる、私達の住んでいる・・・ 「……冗談じゃない…そんな話を聞いて 黙ってられっか」 「…休業中、じゃないのか?」 「ふっ……知ってるでしょ 私の性格」 「あぁ、本気になったを止めるのは至難の業」 「一人より二人・・・幼馴染のよしみで 私も戦力に入れてくれますか」 立花が渋い顔を見せた そりゃそうか、と 私は思わず笑ってしまった 「色々鬱陶しくなってな、私も今は何処かの城に属しているわけではないんだ」 「そうなんだ」 「依頼があって こうして偵察しているわけだが・・・まぁ 一人位なら」 「…本当!?」 「その代わり お前も頭使えよ?作戦とか色々」 「使う使う!私…皆を助ける為なら 出来る事はなんでもするわ」 「あと 怪我はするな、私は文次郎に恨まれるなどまっぴら御免だ」 「うん・・・って やっぱり知ってたのね、私達のーそのー…」 「他の奴らが何故気付かないのか 逆に不思議だった程だ」 そういえば 学園に居た頃 一度だけ合同訓練で立花と組んだ事があった ただただ 彼の無駄の無い動きを参考にしようとしたのは よく覚えている うっかり惚れそうになったわ・・・あっこれはあの人には秘密ね 「で、既に進軍を始めている・・・決行は今夜だが」 「…早々と退散させればいいのよね」 「まあな……」 立花が思案する間 私は山菜を採る 腹が減っては戦は出来ぬ 「…山菜はいいから も考えろ」 「考えてるよー……あぁ、本陣潰せば戦意喪失するんじゃない?」 「・・・・お前 真面目に考えてるのか?」 「考えてるよー…潜入は私達の十八番、火でもつけりゃあ大混乱」 立花が 溜息を吐いた 「って もう少し頭が良いと思っていたよ」 「阿呆で悪かったわね」 「……まぁ 面白そうだな」 お互い にやりと笑みを浮かべた 「細かい事は 後でまた話そう」 「えぇ」 「…とりあえず、山菜を家に置いてこい」 NEXT → (09.3.6 忍べ!) |