敵陣潜入 II




漆黒の空に 浮かび上がる微かな灯…そこに本陣があるわけだ

「手っ取り早く本陣を潰す方法は…」
「火計」

私は即答した
頭の中では 既にこの計画の算段はしてあるのだ


「私達は正面から本陣へと潜入する」
「・・・正面!?」

立花の反応も 予想通りである

「村の殲滅戦とはいえ居るでしょ、あの周りには護衛の忍が」
「まぁ……そういう空気を感じるしな」
「陣近くの木の上から火矢をぽんと投げ入れる…なんて上手くいかないと思うわけよ」
「私達以外にも同じ目的の忍は居るとは思うが、今此処には二人しか居ないからな…確かに博打は無理だ」

「そうすると正面突破しか無いでしょう」
「しかし 兵士の振りをして正面から…しかも今は二人だ、流石にこれは」

「私 非の無い人間が死んでいくのはもう見たくないの」
「それは解るが…だからといって危険な賭けをする事に私は賛成しない」
「立花がやらないのなら 私一人でやるまでよ」


立花は溜息を吐いた  何が言いたいのかはよく解る

「・・・私も行く、もしに何かあったら 後で私も殺されそうだからな」


「きっと大丈夫!私と立花は結構変装得意だったでしょ?」
















お食事中だった一般兵から鎧を拝借し 何食わぬ顔で本陣の目の前まで到達する事に成功した


(そろそろ潜入するか)
(了解)

目で会話を交わす
ここからが私達の腕の見せ所…



その時 ドンという音とともに 後方の森から火の手が上がった




「なんだ!?」「火が出ているぞ!」

周囲の兵士達が慌てふためいている


(何事なの?)
(さあ…)

私も立花も 想像していなかった出来事に 少し動揺した


(だが 今が好機かもしれない)


私達は 本陣へと駆けた






「殿、森が炎上しております…何者かが放火したのかもしれません」
「なんだと!?」
「火薬が爆発したらしく 火の勢いが強いので此処は危険ではないでしょうか」


私は立花が殿様相手にごく自然と兵士を演じている姿を じっと見ていた

やはり 彼と行動するのは面白いな・・・・そう思いながら 私は辺りを窺う
本陣に火をつける好機を窺っているのだ


「ひとまず間者を森に向かわせて様子見じゃ!」

その声に反応するかのように 周囲に潜んでいたと思われる人間の気配が大幅に減った

まさに 今が好機だ…
私は 陣幕めがけて大量の焙烙火矢を投げた


爆音と 煙と そして火・・・本陣に さらに動揺が広がる


「あっあっあいつじゃあ!本陣にも曲者が居ったわい!!」
「誰か捕らえよ!」



こういう状況で 血が滾ってしまう所が 私の悪い所だと思った
やはり 忍が性に合っているんだろうな

「…でも 今回限りよ」

私は慎ましやかな女性としてこれからは過ごすのだから……多分



鎧を脱ぎ捨てて 私達は颯爽と闇夜に消えた







*  *  *







「この達成感…私やっぱり向いてるわ、忍者」


追手を撒き 我が家のすぐ側まで辿り着けた私達は緊張を解いた

軍は二ヶ所の火災の所為で大混乱に陥り 殲滅戦を起こす兵力も気力も無くなったようだ


の本気が久々に見れて良かったよ」
「学生時代よりちょっとは進化したでしょう?」
「これで休業中なのは惜しいな」

「でも 森の火って一体誰が…」
「あれに助けられた部分があるからな、何処かの雇われた忍達が起こしたんだろうな…」
「…私達 よく二人でやろうと思ったよね」
「おいおい…がそれを言うなよ」




その時 前方にいつもの黒猫が此方へやって来た


「あれ?迎えに来てくれたの?さすが夜行性ね」
の猫なのか?…後ろに誰か居るけど」


闇に紛れて気付かなかった

黒い着物を来た少女が 黒猫の後ろに立っていた



「…立花…あの子…お化けかな」
「…私に訊くなよ…本人に訊いてくれ」


少女は 黒猫を撫でながら私達に視線を向けた



「あ……あの…こんな夜中に外を歩くのは危険よ…?」

「私の事は気にしないで、それより隣の人に何か食べさせたりしたらどうなの?」
「・・・・え?」
「折角此処まで来たんですから 家に招いて食事でもご馳走したらって言ってるの」



また 変なのが私の前に現れた

髑髏、猫、今度はやけに馴れ馴れしい子供ときた



「…そのつもりだったわよ!立花、ちょっと家に来なさい!」
「子供相手にムキになるなよ…」
「元々そのつもりだったんだってば!」



人を小馬鹿にしたような表情を浮かべるこの子供に苛ついたのは事実だ

半ば強引に立花を連れて 我が家の扉を開いた



「何処行ってたんだ……って仙蔵!?」


「………文次郎もう帰ってきてたの!?」





少女がくすくす笑いながらこう言ったのを私は聞き逃さなかった


「あらら、修羅場来ちゃった?」






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(09.3.14 忍装束だわ男連れだわ どうしろというんだ)