鏡童女 I 「そんな訳で 今こうして立花と此処に居るんです…が…」 「別にやましい事をした訳ではないんだから そんな顔をするな」 私と立花は 事の顛末を文次郎に話した 文次郎の顔を見ていれば 何を言いたいのかは解る 私が纏っている忍装束を見る この冷たい視線を見れば一目瞭然である… すいません 今度こそこれで忍は休業しますので許してください 「でも 本陣炎上がお前達がやった事だとは流石に思わなかったな」 「なんだ文次郎、お前もあの場に居たのか?」 「森の爆発は俺も少し絡んでたんだ」 「そうなのか…あれが無かったら私達も成功していたか分からなかった」 「…で、さっきから気になってたんだけど その子は」 文次郎が 私の後ろで微笑んでいる少女に視線をやった 「この子は私も分からなくて…」 「どうだ文次郎!こうして見ると 立花との娘に見えるだろう?」 「・・・・・・・・」 何故この雰囲気でそんな冗談をこの子は言えるのか この空気、どうしてくれる 私は何も悪くないぞ、こればかりは 「…って 馴れ馴れしいわね…あんた少しは年上を敬いなさい」 「私はだ、自分や友達を敬ってどうする」 「はぁ!?……寝言は寝てから言いなさい」 「人々が怖がらないよう わざわざ童女の姿になったというのに…まぁいい、私は疲れたから休むわ」 そう言うと少女は 床に座ったまま眠り始めた 私達は 少女の正体も目的も全く掴めなかった 私を名乗るこの少女……私は現に此処に居る、私である筈無いのだが 「何なのかしら……明るくなるまで…とりあえず寝かせておきましょう…」 私は少女を暖かい所に移動させた 少女の身体は 冷えきっていた 「…ちょっと会わない間に 何かに憑かれてるのか?お前達は」 雑炊を啜りながら 立花が訊ねた 「憑かれているとしたら 俺ではなくだ」 「でも 特に悪い事が起こるわけじゃないのよ、寧ろ…」 私を助けてくれた 人々を見殺しにせずに済んだ では 此処に居るこの少女は…… 「…私は 私に何を伝えたいの」 「 何か言ったか?」 「え?いえ 何でもないわ…」 * * * 「なんだ、まだ寝てるのか」 少女の甲高い声が響いた 「とうに日は昇っているぞ」 「……昨夜は大変だったんだから…もう少し寝かせてよー…」 「張り切って畑を耕す文次郎を見習え!」 「…アレと私じゃあ 体力が違うのよ体力が……」 「私は今から散歩してくる、はさっさと起きるんだぞ」 お前は私の母親か何かか そう思いながら ゆっくりと起き上がった 欠伸をしながら外に出ると 既に少女の姿は無かった 「もう起きたのか」 「あの子に起こされたのよ」 朝から無駄に元気な文次郎を見つめながら その場にしゃがんだ 「…あの子、名前を訊いてもとしか言わないんだが」 「私自身らしいから……その弐って呼んでやるわよ、もう」 「見た目はさておき 中身はお前より年上っぽいがな」 「……悪かったわね朝起きられなくて」 昨日と打って変わって 穏やかな今日… 私は本当に生きているのか これは夢なのか 何だかよく解らなくなってきた 「此処の皆を守りたかった…だから昨日は 私……」 「解ってる、もう怒ってないから気を遣うな」 「……水汲んでくる」 桶に水を汲みながら 井戸の水面に映る自分を見つめた あまり目が開いていないのは きっと疲れが抜け切れていない所為だ なかなかの酷い顔をしている 『わたしは あなた あなたは わたし』 「……!?」 水面に映った私が 私に話しかけてきたような気がした いや 私の顔をした 髑髏を抱えたあの女が 水面に 「………彼女は 私よ」 背後から聞こえたその声に 振り向くと 団子を片手に少女が立っていた 「…散歩は?」 「もうしてきたわ、まぁ…この自然溢れる景色を久しぶりに堪能したかっただけだから」 「あぁ そう……」 「貴方が髑髏の女と呼んでいる女は 私・・・私つまり髑髏の女は貴方」 「…どうして私はこうして生きているのに もう一人私が居るわけ?」 「執念?怨念?…貴方には幸せに死んでほしいから もう一人の貴方つまり私が居るのかもしれない」 私は 少女の言っている事が理解できなかった 否 こんな訳の分からない話を理解しろという方が間違っている気がする 「生路は無限ではなく有限である」 何処かで聞いた事のある台詞だ …そうだ 髑髏の女が言っていた 「なんでもいいから私の言う通りにすればいいの!」 「…私の人生勝手に操らないでよ…団子食べながら言われても説得力無いわよ」 「辛い思いをしたくないなら…私の言う通りにしてよ……」 どうして そんな顔をするの ・・・なんて 訊けなかった NEXT → (09.3.22) |