「この姉ちゃん…随分変わった服着てるな」
「よく分からん着物だが いかにも銭持ってそうな出で立ちじゃねぇか」


この時代に来て数十秒…といったところだろうか

私は早速 盗賊のような人達に囲まれてしまった
・・・明らかに時代のチョイスミスだ


「私はあんた達と関わってる暇は無いの、退いてください」
「あぁ?随分元気な娘だな…」
「…ちょっ触んないでよ!汚い!」


もしも私が所持している“未来の物”が 盗賊に盗まれたりしたら…
時を経て 未来で出土でもした暁には大騒動になる
どうしてこんな21世紀の物が戦国時代の遺跡から出てきたんだ、なんて話になったら…
ああ 考えただけでゾッとする



「とりあえずお前等 この荷物見てみろ」

リーダー格のような男が下っ端に命令している
まずい 鞄の中身は彼等にとって未知なる物だらけだ 興味を持たれたら益々面倒な事になる


「何だこれ…何処から開けるんだ?」

「触れるなこの泥棒が……っ…あれ…?」


目の前に居た盗賊達が バタバタと突然倒れていった
視線を上に向けると 木の上に人影がひとつ


「盗賊に襲われておいて ボケっとしている奴があるか!」


目の前の光景が コマ送りのように感じる


「・・・・・え?」

突然の強風に髪を乱され 我に返った

私は今 この人に助けられた…ってこと?


「はぁ……あっ……に…忍者っぽい…本物!?」
「……な…何なんだ?……まぁとりあえず、此処は危険だから…来い」

木の上から颯爽と地面に降り立ったその出で立ちは まさに私の思い描く“忍者”そのもの


「何処に行くんですか?」
「忍術学園に戻る…訓練帰りなんでな」
「………えっ…学生!?うっそだぁ!?」
「……………」





邂 逅





「学園長…こちらさん、18歳だそうです」
「で、雑務でも何でもするから学園に暫く居候させてほしい…とな?」
「そのようです」
「ところで 随分と浮世離れした格好なような気がするんじゃが…」

忍術学園の学園長さんと 先程の男・潮江文次郎が 同時に私の方を向いた
私はにこりと笑顔を見せたが 敢えて何も口出ししないでおいた

「南蛮の衣服か分かりませんが…盗賊に襲われてた時の様子から もしや高貴な方かも…」
「やだー文次郎ったら 私って高貴に見える?フフッ」
「……前言撤回します、只の素性不明な馴れ馴れしい五月蝿い女です」
「酷っ」


流石に あまり疑われると追い出されてしまう
さっきから 凄く気分が高揚している・・・暫く此処に居てみたい、という気持ちが膨れ上がっている
ここは素直に 嘘を吐かないで行こう


「これはですねー…未来の服なんですよ」

二人とも ぽかんとした顔をしている そりゃそうか


「まぁ…信じろと言われても無理かもしれませんが……私、未来からこの時代に来たんです」

「・・・・・はて・・・」
「……、お前は何なんだ一体?」

「この時代から約450年近く未来の世界から来たんです」


私の世界でも こんな事を言って信じる人は誰も居ないとは思う
この子 ちょっと頭がおかしいんじゃないか?と思われるのがオチだろう


「時間を移動…出来るという事かね?さんは」
「さすが学園長さん!その通りです!ただ…この特別な飴玉が無いと無理ですけど」

穿いているスカートのポケットから巾着袋を取り出し 二人に飴玉を見せた
口に含むと自分が望んだ時代・時間に移動出来る なんとも不思議な飴玉だ


「450年後の世界にも 時間移動出来るような物を作る技術はございません
 私も何故 私の元にこのような物があるのか…実はよく分からないんですよね」

学園長さんも文次郎も 確実にキャパシティを超えているといったような表情をしている


「……すいません、信じられないですよね…奇怪ですもの
 ただ 私の事を書物等の後世に残る物に記述する事だけはしないで戴きたいです」




きっと私は 不思議極まりない女として見られているのだろう

私自身だって タイムトラベルが出来るという事実が不思議でしょうがない



さん、面白いのう…!心ゆくまで此処に居るといい」
「ほ……本当ですか学園長さん!」
「ただし 外は危険じゃ、一人で勝手に外出したりするんじゃないぞ」
「はい!……?」

うわ こっち見てるよ…文次郎が疑いの目でこっち見てるよ…

「そんな目で見ないでよ!」
「素性不明すぎて怪しいんだよお前は!」
「おまっ!?…私の方が年上でしょ!ちょっとは敬いなさいよアンタ!」




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(08.6.6 さあどうなるトリップ)