帰宅して 玄関を開けると 静寂、暗闇 家を出る前に苛々して破った新聞紙が 床に散乱している 自分の将来が見えない… 私は浪人してまで大学に行きたい、のか? 本当にやりたい事なんて 正直 別に無いんだ 私の唯一の“希望”…それは時間を移動出来る飴玉だ いざとなればこの世界から逃げる事が出来る、そう思う事が幸せだった 皆と他愛も無い話をして 笑って 時々喧嘩もしたりして 高校を卒業してから そんな日常的だった事すら恋しくなった ただ 楽しく過ごせるだけで…よかったのかな 一人暮らしを始めてすぐの頃 ずっと好きだったカフェのウェイターが結婚した事を知った 高校時代の友人が電話で教えてくれた …少し有難迷惑な話だ 私は動揺していたのか バイト先で失敗を繰り返し 呆気なくクビになった 飴玉の入った巾着袋を 握りしめた タイムトラベルをしよう、私の事を誰も知らない時代へ 「ねぇ〜あの人結婚したらしいよ」 「・・・う、嘘」 「やっぱり女子高生があんな眩しいウェイターさんに恋しちゃっても不毛なだけだったね」 誰かを好きだと想うことに 不毛とか考えなきゃいけないわけ 誰が誰に恋しようとも それは個人個人の自由でしょう? 気持ちも 頭も 何もかもがもう ぐちゃぐちゃだった 一心不乱に 必要だと思った物を大きな鞄に詰め込んだ そして飴玉を口に入れた時 久しぶりに「わくわくする」 そんな気持ちになった そして気づいたら 木々に覆われた道の真ん中に立っていた 「うわ……葉っぱが太陽に照らされてきらきらして…綺麗……」 「この姉ちゃん…随分変わった服着てるな」 「よく分からん着物だが いかにも銭持ってそうな出で立ちじゃねぇか」 「……ん?」 呑気に自然を堪能していた時に 運悪く盗賊に出くわしてしまったわけだが いや、違う・・・ 「盗賊に襲われておいて ボケっとしている奴があるか!」 運が良かったんだ、私は 刻 下 相変わらず 訳が解らない女だ どうして校庭の隅にある朝礼台の上で 寝ている 部屋があるんだから部屋で寝るだろう、普通 「おい、風邪ひくぞ…」 いくら学園内だからって この無防備さ…さぞや未来は平和なんだろうな… 「起きろって」 「・・・・んぁ〜?…文次郎かぁ」 「悪かったな俺で…」 「…別に誰も アンタに起こされて残念だーなんて言ってないじゃない」 「で、何でこんな所で寝てるんだ」 「散歩してたんだけど 陽射しが気持ちよくて…つい」 手で口元を隠す事も無く 大欠伸をしている おなごとしての興味…という仙蔵の言葉をふと思い出した この大欠伸女の何処らへんが…と問いたい 「……嫌な夢を見たの」 「こんな所で寝てるから…」 「最近すっかり忘れてたのにな…失恋の事とか」 が哀しい顔をしているのに 一瞬戸惑った 楽しそうな顔も 怒った顔も すぐに思い浮かぶけれど 「片想いだったの、まぁ相手は私の名前すら知らなかったけどね」 「・・・・・・・・」 「・・・いかにも恋に疎そうなアンタに言っても仕方ないか」 「失礼な………まぁ確かに…そうだと思うが」 “元の時代”でのの事を 正直よく知らない それほど知りたいとも思わない ・・・この様子だとあまり良い事は無さそうだからな 「私は今…嫌な事とか思い出して ちょっとだけ凹んでる、だから」 「だから?」 「……いい男の励まし方をする場面よ、前に教えたでしょ」 「はぁ…?」 いい男の励まし方って なんだ いつ教わった そんなの 「……そっと頭を〜?」 「…そうだ、それか!」 の髪の毛を盛大にぐしゃぐしゃにしてみた こうすると不思議な事に笑顔になるんだったな、落とし穴の時に学んだ 「ちょっ!?…な…なんかちょっと違うけど…」 「これじゃないのか?」 「一応合ってるんだけど…ぐっちゃぐちゃじゃないの髪がっ」 何がちょっと違うのか分からないが 目の前のはやっぱり微笑んでる 「はこの時代、楽しんでるか?」 「え?うん、そりゃもう!」 「なら 嫌な事を思い出さないくらいに無心で楽しめばいいんじゃないのか」 「……な…何気に良い事言ったぁ!アッハハハハ」 「笑わせるような事は何も言ってないが」 少しの間に まぁころころと表情がよく変わる、と感心してしまった 「文次郎が居て、よかった」 「…は!?……も…もう一回」 「やだっ恥ず…っ二度も言わないよ!」 …うたた寝している間には頭でも打ったのか? そうだろ 頭打ったんだろ 可愛く見えるんだ、これはおかしい …でも それでは俺が頭を打った事に ・・・あぁだめだ よくわからん Next→ (08.7.7 むずむず…) |