「ちょっと買い物に出掛けるので 護衛…宜しくお願いします」 朝食を食べ終え 長屋に戻ろうとした時に が声を掛けてきた 「…仙蔵じゃなくていいのか?」 「芋買いに行くのよ、芋に仙蔵さんだなんて勿体ないわ」 「もうお前一人で行け!」 「嘘ですよ潮江殿〜」 つくづく調子の良い女というか・・・不思議な女だ 俺の女子像を 嵐の如く滅茶苦茶にし、粉砕していった その結果 俺はそんな嵐のような女が好みなんだと知った ・・・信じられない、己が 「わかったから落ち着け」 「そうと決まれば!さっさと着替えて行くわよ!」 芋ごときで 何故そんなにも張り切るのか 「暑くなってきたねー」 は高価そうな扇で自らをパタパタと煽いでいる 多分 未来では安価なのだろうが… 「…そういえば芋なんて学園に腐るほど無いか?おばちゃんの事だし絶対…」 「あっ、バレた?」 この女 慌てもせずに認めやがった 「…………何を企んでるんだ、」 「ただ散歩しようかな〜って」 「休日…絶好の鍛錬の時間を犠牲にしてまで付き合ったというのにお前は」 「そう言うと思ったから買い物に行くって言ったの」 いけしゃあしゃあと・・・ 此処まで行くと 寧ろ許せるという不思議 「鍛練鍛練じゃ哀しいじゃない、苦しいじゃない」 「いや別に」 「…休日くらいは のんびりした心になりなさいよって事」 「お前…今日おかしくないか?」 「そっそんな事無いけど!?いいじゃない…のんびりしましょうって」 なに赤くなってるんだ、こいつは 「あらっあんな所にうどん屋が!いい匂い」 「食べたいなら食べたいって言え」 「まぁまぁ 腹が減っては戦は出来ぬ、でしょ」 そう言うと はうどん屋へと駆けて行った …誰も行っていいなんて言ってないが 「そうだ、文次郎」 「なんだ」 「私 銭持ってないんだ……あっおじさーん!かけうどんお願いします」 「……お前…覚えてろよ」 図々しい上に浮世離れした 未来から来た女 齢十八にして未婚 未来では普通の事らしい ただし 精神年齢は俺より年下なのは確実だ 戦に関する心掛けが 全くもってなっていない 女が使っていた言葉を引用すると「平和ボケってヤツですよ」 しかもその平和ボケってヤツのしっぺ返しが俺達に返ってくる 普通なら愛想を尽かせる所だ・・・俺は何故か違ったが 鈍 感 「美味しいなぁこれ」 うどんの美味しさにまさに舌鼓、だ かたや文次郎は未だに私の所持金が0円だった事に ぶつぶつ文句を言っている ・・・夕飯の芋を分けてあげよう 「……あ、 その顔」 「顔?」 「顎の横…怪我してる」 「えっ気付かなかったー何処何処」 「だから顎の横、此処」 文次郎の指が顎に触れた 「…っわ!?」 ちょっと触れられたくらいで動揺してしまった 私としたことが 文次郎はそんな私を不思議そうな眼で見ている 私ばっかり こんな動揺して馬鹿みたいだ …流石に気付かれるかなぁ 照れてるのバレバレだよね、今日の私 「あぁ、すまんすまん」 …普通に謝ったよ この男 絶対この「すまん」は傷に触って痛かったか、という意味での「すまん」だ あぁそうだ 女心に敏感な筈が無いではないか 「文次郎は忍者にぴったりの性格ですね…」 「はぁ…突然何だよ」 「褒めてんの」 余程寛大か余程変な女じゃなきゃ この曲者とは付き合えないのではないか 私は充分“変な女”だと思うけれどね ・・・自信、無くはない 「…たぶんこの怪我、落とし穴に落ちた時だと思う」 「あぁ、この間の…そういえば腰は治ったのか」 「完治ではないけどね」 「じゃあ よりにもよって何故散歩なんか」 あんたと一緒に居たかったんじゃバカタレッ……なんて言える訳無いじゃない… 「な…なんとなく……文次郎が一緒だったら楽しいかな〜…みたいな…?」 「…そうか……でも…お前と違って楽しい事なんて喋れないが…」 「お喋りしたり笑ったりする事だけが“楽しい”…って訳じゃないのよ、そう」 ああもう 何なの この空気は・・・! 「…私、心臓が痛くなってきたわ…もう」 Next→ (08.7.27 恋は鈍感な方がいい) |