なんだろう これは・・・頭が割れそうだ 風邪は治った筈、否 治ったんだ 頭が痛い 骨も何だか軋むような感覚がする 病み上がりに毒虫疑惑事件で確かに昨日は疲弊した しかし 睡眠を充分に取ったのにこんなに辛いなんて有り得ない 何か変な病気でも拾ってしまったのだろうか この歳で成長痛が来る筈もなく…明らかに何かがおかしい 私の身体に何か異変が起こっているのだろうか 異変・・・? 「まさかこれが・・・不具合なの?」 異 変 未来の私が記していたメモには 色々なリスクが書いてあった その中で 一際大きな文字で書かれていたのが“不具合” トリップに順応しきれていない身体でトリップし続けると 身体が悲鳴を上げるという訳だ 何度も長期的なトリップをしていれば まだよかったのだろう ただ 殆ど経験の無い者が長期的なトリップをすると尚更リスクが高まる、という事だ 不具合を放っておいた場合の末路は この身体が砂塵の如く崩れていくとか何とか… 恐らく 私が此処で消滅したら 飴玉を与えた未来の私も同時に消滅するのだろう …私にはトリップのメカニズムがさっぱり解らないが 鞄の奥底からメモを取り出し 改めて読んでみる <不具合の主な症状> 初めのうちは倦怠感・頭痛など 関節や骨に痛みを感じたら早めに帰還すべき 内臓器官が崩れ始めると帰還出来なくなる可能性がある というか、不具合が起こる前に早く帰ってきなさいよ 下手に行動して未来を変えるべきではない 「骨とか…ちょっとまずい段階まで来てるんじゃ…」 いきなり突きつけられた現実に 寒気がした 私が崩れるのは時間の問題というわけか… 死ぬだなんて 御免だ でもそれは生に執着しているから、ではない ただ私はもっと文次郎と…他の皆と…一緒に居たいだけだ …これを生に執着していると言うのか? しかし この世界に居るという事は ただ崩れるのを待つという事 死にたくない けれど 帰りたくない 生きる幸せを 此処に来て初めて感じる事が出来た 居てはいけない存在なんだろう・・・それは解ってはいるけれども どうすれば いいんだろう… 「……さん…さん?」 「・・・・はっはいっ!?」 あれ いつから目の前に仙蔵さんが居たのだろう それより いつ自分は食堂に移動していたのだろう 「ぼけーっと食堂の椅子に座ったまま微動だにしてなかったけど…大丈夫?」 「…え…もう昼食の時間……?」 「いや、ただ私が食堂に用があっただけだよ」 「あぁ…そうでしたか」 放心状態になっていたのか… なんだか 考えるのすら疲れてしまって 「まだ風邪が…?」 「……んー…そうみたい 治ったと思ったんだけどねぇ」 「無理は駄目だよ」 些細な優しささえも 何でこんなに切ない気分になるのかな 「仙蔵さん………私が今…もしも未来に帰ったら……」 「それはまた急な・・・・居なくなったら…文次郎が泣くんじゃない?」 「アハハッまっさかぁ〜あまり見たくはない光景ね」 「でも 寂しい気持ちは私だって当然…」 「…そう思ってもらえるのって…嬉しい事だね 本当に」 ふと気が緩んだ拍子に 涙が一筋 頬を伝った 「・・・・さん?……もしかして帰るって…例え話ではなく」 「違う違う!何だか嬉しくて涙が出ちゃって…それだけだから!うん!じゃあ」 明らかに 不自然すぎた・・・ しかし これ以上ぼろぼろと泣いてしまったら それこそ気を遣わせてしまう 泣かない為には その場を立ち去るしかなかった 「……い…ったたぁ…」 廊下を小走りしていた時 骨が軋むようなあの感覚にまた襲われた もう 満足に走る事も出来ないのか 「おい、腹でも痛いのか?」 蹲っていたら 声を掛けられた ああ 今一番会いたくなかった人に会ってしまった 「・・・あれ 文次郎がどうして此処に」 「どうしてって…俺は生徒だから廊下に居るのに理由なんて無いだろうが」 「そりゃそうだ……アンタは居て当然だ…」 「はぁ…?」 どうせ終わるなら 此処で終わればいいか… …会ったら絶対そう思うだろうから 今はアンタに会いたくなかったのに Next→ (08.9.8 いつかはこんな日が来るとは思っていたよ) |