「文次郎!さんが…」
「腹が痛いんだろ」
「腹…?……あぁーお前って奴はどうしてそうなんだ…!」

仙蔵はどうしてすぐ苛々するんだ、と言おうとしたが やめておいた


「あの様子は…そろそろ帰る気がする、彼女の元の世界に」
「俺は分からなかったが……」
「思い詰めているような表情で 私が今もしも未来に帰ったら…と訊かれた」
「・・・確かに変な雰囲気だったが 腹が痛いからかと思ってた」
「お前って奴は……」



しかし何故 突然帰るなんて話になったのか
ずっと此処に居たい、なんて言ってた割に あっさりしているな

また 女心がどうのこうの〜なんていう理由で嘘でも吐いているのか…



「授業が終わった後にでも さんの様子を見に行った方がいい」
「…俺だけで?」
「当たり前だろうが!お前って奴は……」
「飽きたぞ、それ」





毀 命





部屋に入ると 虚ろな目をしたが此方を向いた



「…あれ、どうしたの?」


お前のその虚ろな目の方が どうしたの、と聞きたい



「……腹痛は大丈夫か」
「うん…大丈夫、ありがと…」
「………………」
「……仙蔵さんに何か…言われた?」
「…ああ、お前が帰るかもしれないって」
「フフッ…そう……」



なにかが おかしいんだよな

帰るか帰らないかで悩んでいる、そんな表情とはまた違う
寧ろ病人のような…


「青白さが一際凄いぞ」
「…風邪がまだ治ってなかったみたいで」



痛そうな表情をしながらが立ち上がる
風邪って 身体が痛くなるようなものだったか?



「…さぁ、何か隠してるだろ」
「なにが?私はいつものまま……」
「身体が痛いのか?」
「…ちょっとね……ゴホッ…ハァ…」


絶対に おかしい


「病なのか…?そういうのは未来から来たお前の方が詳しいだろ」
「・・・・・・・・・」
「…なんなんだよ一体」


何でお前は黙っているんだ



「…ッ…ガハッ………あーまずいな…内臓きちゃったなぁこれ…」


の掌が 血の赤に染まった


俺 この色が嫌いだ



「……あーあ…この数時間で血ぃ吐く位までいっちゃったか…」
「おい …とりあえず新野先生に診て……」
「いや…分かってるの、これは病気じゃないから安心して……ゴホッ」

目の前で吐血してるのを見て 安心してられる筈が無いだろうが


「うん…風邪じゃない、これが…不具合よ……」
「不具合……?」
「移動先に…居続けると起こる現象の事……」



が以前呟いていた言葉を思い出した


『私は…時間に限りがあるのよ』



は いつか不具合が出ると知っていて ずっと此処に居たのか…




「何故…身体が壊れると知っていて帰らなかったんだ」
「野暮な事訊かないでよ…私が此処に居たいから、ただそれだけ」
「だからって 血吐くまで無理して居る必要無いだろうが!」
「・・・私にとって此処がどれだけ幸せか解ってる?」
「死んだら意味無いだろ」
「死んでもいい、好きな場所で死ねるなら」
「…ふざけんなよ!」
「私は本気よ!」


は 戦に直接関わり合いの無い場所で生活していると言っていた
死と隣り合わせの所で生活している奴等とは やはり違うんだな…軽いんだよ


「…お前は死ぬって事がどういう事か解ってねぇんだ」
「・・・・何それ」
「お前が此処で死ぬ、お前はそれでいいかもしれないけどな…俺がよくない」
「・・・・・・・・」
「俺だけじゃない…他の皆だって見たくない」

が布団に顔を埋めた

「……だって…」
「帰れば不具合は何とかなるんだろ?…自分勝手な事ばっか言うなよ」
「…好きだから…別れたくないのに……そう思うのは…私だけなの…」
「命が一番大事だ」
「随分淡泊ね……っ…」
「辛いならそんなに無理して喋るな」



お前だけが別れたくないと思っているんじゃない


こんなの姿は見たくないんだ

亡骸なんて もっと御免だ





「・・・頼むから、帰れ」



を 泣かしたくはなかった

けれど きつく言わないと絶対此処から動かないだろ



「…っ…帰れって言わないって…約束したじゃない……」


「帰ってくれ」
「やめてよ…私は……」
「帰れ」
「嫌だぁ…」
「生きていればもう一度会えるかもしれないけどな…死んだら二度と会えないんだ」
「それはそうだけど…でも……」
の事を想って言ってるんだって……わかってくれよ…」
「・・・・・・・・・」


が 小さく頷いた




二度とに会えなくなるだろう

それでもが自分の世界で生きているなら  俺達の事を忘れないでくれるなら








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(08.9.11)