自分の事しか考えていなかった


そうだよ  私が今 此処で死んだらどうなる

学園の皆に迷惑を掛けてしまう  嫌な思いをさせてしまう



「生きていればもう一度会えるかもしれないけどな…死んだら二度と会えないんだ」






私が持っている残りの飴玉は二つ・・・今 帰ったとしても 一つ残るんだ


もう一度行けるかどうかは分からない
けれど 希望はある

ただし最後の一つという事は 次に過去に行った時にはもう未来に帰れない…という事だが





「ごめん…私 自分の事ばかり考えてた……帰るよ、未来に」
「……それでいい…」



身体中が痛い
気力でなんとかなっている、そんな感じだ



「楽しかったよ…皆と一緒に居れた事が本当に楽しかった…」

「…帰るっていうのに何も出来なくて」
「私が帰るって嘘吐いた時に 皆が集まって一緒に遊んでくれた、あれで充分だよ」




私って なんて幸せ者なんだろう

過去とか未来とか関係無い  この経験は現実のものだから




「皆に…事情を知ってる学園長にも挨拶出来なくて…」
「事情を知ってる学園長先生と仙蔵以外には 後で俺が上手く言っておくから」
「さすが会計委員長、頼りになるわぁ」
「それはどうも」



「・・・・飴、舐めなきゃ」


鬱陶しいくらい甘ったるい苺味が 口の中に広がる



「…そうだ、文次郎にこれを預けるわ」
「預ける…?」
「ちょっと待って…鞄の中にあった筈なんだけどー……あったあった」

イミテーションの宝石が付いている指輪を渡した

「これ安物なんだけど 好きな指輪なの」
「好きなって…大事なものなら」
「あげるんじゃなくて…預ける、だからね?」


これは 一種の束縛なのだろう
“私”を残しておいて 文次郎にとってのを過去の人間にさせないんだ

私は「誰かいい人見つけなさいよ」なんて言える そんな大人な女には悪いけどなれないの




「…絶対 この世界に戻ってみせる」

「俺は…お前を待っていていいのか?」
「……えぇ、意地でも帰ってくるわ」
「でも お前の世界は」
「それはなんとかする……もう…一人は嫌だ…」



文次郎が私を力強く抱きしめてくれた
身体が痛い筈なのに 痛みを全く感じない

体温を感じた途端 涙が溢れた



「…ほ……んと…は…っ…離れたく…な…」
「………俺だって…離れたくない」
「…いっ…今更…言わないでよぉ……」
「これでいいんだ…が死ぬより…これで」




口内の飴玉が溶けていくたびに 鞄の取っ手を強く握りしめる


いつもは トリップに思いを馳せながらこの瞬間を楽しむのに

こんなに苦しいなんて 思わなかった




唇に柔らかい感触がした


「…ん……また、ね……絶対…」






目の前が 真白になる直前  微かに声が聴こえた


「行くな………」






















付けっ放しのテレビから 軽快な音楽が流れている


飲みかけのミルクティー

散乱している雑誌


私 たった一人の空間



それは 向こうに行く直前の景色そのもの

経験は現実でも  時間としてはあの日々が無かった事になっているんだ



「・・・誰か居ないの・・・ねぇ・・・皆 何処に居るの」



居る筈が無いって 解っているのに




あぁ これが長期タイムトラベラーが一番辛いと感じる 虚無感ってやつか





「……っ…どうして誰も返事してくれないのよぉぉ……ねぇ…どうして……うぁぁぁ…」









別 路





これは罰なのだ、   彼に あんな顔をさせてしまった







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(08.9.12)