「うわ…なにその頬、また食満と殴り合い?」

食堂で逸早く伊作が俺の頬の哀れな状況にに気づいた …さすが保健委員長

「いや、にやられた」
「・・・嘘!?…よっぽど酷い事したんでしょ〜」
「俺も悪いがあいつも悪い」


俺はの為を思って言ったんだ

あんなに浮世離れしている女が 何事も無く此処で暮らしていける訳が無い
大人しく元の世に帰れば 命を落とす危険だってこの世よりも少ないだろう

死んだら元も子もないじゃないか あの馬鹿たれ


「文次郎みたいな人って女の子を怒らせる能力に長けてるよね」
「…一応俺はあいつの為を思って」
「そういうのって言葉足らずだと伝わんないんじゃない?」
「・・・・・・・」














私は先程 生まれて初めて落とし穴に嵌まった


「誰だぁ穴掘ったままどっか行ったの!」


叫んでみるも あたりは静寂に包まれている
空も薄暗くなってきた 恐らく今頃だいたいの生徒は食堂で美味しいご飯を食べているだろう

出られそうで出られない、そこまで深くはないが浅くもない
なんて絶妙な深さの落とし穴なのだと感心してしまった


景気よく文次郎を叩いて逃げてきたはいいが 落とし穴に嵌まるのは予定外だ



「……掌は…痛いし」


未だにじんじんと掌が痛む ・・・叩かれた方はもっと痛いか








辺りが徐々に暗くなる このまま誰にも気づかれないまま朝を迎えるんだろうか


「誰か居ませんかー…誰かー………居ないよな…」

穴の中で体育座りをしながら 顔をあげて空を見る
空には星空が広がっていた ・・・・星ってこんなに沢山見えるものだっけ



元の時代に帰った所で またあの生活に逆戻りだ
色が無さ過ぎて 生きている気がしないんだよ

文明の差は歴然としていて 不便極まりない
けれど 私は此処に居たい  我儘だって分かっているけど


ねえ 私の本当の居場所は何処にあるのかな



「……っ…くぅ……」


馬鹿みたい  どうして泣いているんだろう





喧 嘩





伊作が「男が謝るのが常識だ」って騒ぐから 俺は仕方なく そう、仕方なくの元に向かった
が使っている部屋のある建物は 男子でも女子でも関係無く入れる所だからな


深呼吸して扉を開けたら 部屋には誰も居ない

その瞬間 サァ…と血の気が引く感覚がした


、俺が悪かったから出て来ぉーい」

返事は無い これは本格的に…居ないぞ


危険にも気づかずにのんびり歩いているような女が 一人で外をうろついてたらどうなる

「何処まで迷惑を掛ける気なんだ、あいつは…」




外に出て だだっ広い学園内を探してみる

まあ そう簡単には見つからないよな・・・



「だれかいるの〜?」

気のせいだろうか 何か聞こえるような


「たすけて〜」

・・・いや、幻聴じゃない 何だ?遂に幽霊を見る日が…


「…ん?」

足元を見ると その横に落とし穴…と その中に影がひとつ



「……お前は……何を…してんだ…」
「…お……落ちた……穴に…」
「避けろ、この位」
「私はくの一じゃないんだから無理言わないでよ!」


引っ張り上げると が大きく溜息を吐いた
もしかして あの後からずっと落ちてたのか・・・



「…また、あんたに助けられてしまった」

は 苦虫を噛み潰したような表情をしている

「俺で悪かったな」
「…うん」

なんて可愛くない奴だ  礼くらい言え



「あのさ、最近 楽しかったの…皆と他愛ない話をして 笑って……生きてる実感がしたんだ」


どれだけ つまらない思いをして過ごしてきたんだ
生きてる実感って 何だよ・・・


「ねぇ」
「何だ」
「帰れなんて……い…言わないでよ…」
「分か…っおいっ泣くなよどうすればいいんだっおい…」
「こういう時は そっと頭を撫でて優しい言葉を掛けるのが、いい男なのよ」
「……元気じゃねぇか」

癪なので髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやったら  やっと笑顔を見せた
未来の女ってのは こういうのが好きなのか?


「あ、足手纏いだとは思ってないからな」
「うん……ひっぱたいてごめん」
「この位、何ともない」


あーあ、泥だらけだよーなんて言いながら いつものようにへらへらと笑っている
そんな変わってるこの女が 少し可愛く思えた




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(08.6.20 こっぱずかしい回であった)