「源氏物語って素敵ですよね!光源氏は何だかんだ言ってやっぱり美しい…」
「・・・・・・・・・・」
「貴方、誰が好みですか?私は明石の君かなぁ…」
「・・・・・・・・・・」
「・・・あのー・・・・」
「・・・・・・と・・・」

彼がもそもそ喋りだしたので 耳をそばだててみる

「図書委員会が」
「………あ、そろそろ退出しろと」

彼が頷いた

一番追い出さなさそうな人に追い出されてしまった




さあて・・・益々暇だぞ・・・









「…で 長次に追い出されて暇だから此処に来た、そういう訳か」
「そういう事!なので潮江君、ちょっと楽しい小噺でも一発お願いしますよ〜」
「よく見ろ!こっちも委員会の真っ最中だ!」


会計委員会という実に可哀想な委員会のメンバー達が 私の事を見ている
その中の一人が口を開いた

「あの…貴方が噂の、潮江先輩に拾われた異国人さんですか…?」

・・・言われるたびに変な気分になるあだ名よね


「そうだけど…異国人ではないわよ、私の名前は…以後お見知り置きを」
「お前等はこの女には関わらない方が身の為だぞ」
「あんた、それどういう意味よ」


このやり取りの間にも 委員会のメンバー達が算盤を打っている
疲れた顔をしている彼らが 何だか気の毒に思えてきた
ただでさえ忍術の授業で疲れているのだろうに・・・


「文次郎、これってお金の計算?」
「そんなところだ」
「大変そうだねぇ……ねぇ、私も手伝おうか」
「いらん」
「…いらんだぁ?私の算盤の実力も知らないで!」
「確実に足を引っ張る」

私の事を馬鹿にしながら 視線は帳簿と算盤に向かったまま動かないこの男に苛立ちを覚えた

他の子達に迷惑が掛からないように 上手くこの男だけを邪魔したい


決まった 今日の暇潰しのテーマはそれで行こう





算 盤





黙々と 計算をし続けている若人達

皆よくもまぁ飽きずに付き合っているわね、と感心してしまう


私は部屋の隅から ただただそれを眺めている



「潮江せんぱーい?」
「・・・・・・」

私の声だと判ると 絶対無視しやがる、この男


「隣の家に囲いができたってね」
「へぇ〜………これで満足だろ、さぁどっか行け」

なんと面白味の無い男なんだろう





しかし こう眺めていると忍たま達は可愛いな……一人を除いて

こんなに若い頃から一人前の忍者になる為の訓練をしているのか
自分は甘い世界で育ってきたんだなと つくづく感じる今日この頃


この疲労困憊と言わんばかりの表情をしている皆を休ませたい
これも甘い世界で育ってきたから思うのだろうか?・・・・いや、それにしても限度がある



「文次郎、私算盤出来るんだけど…どうよ?皆もう疲れちゃってて…見てられないわ」
「だから・・・」
「はァん?私の実力を見てからそういう事言ってくれる?ふぅっ…」
「だぁっ耳に息を吹きかけるな!」
「ってこの算盤重っ!」


半強制的に文次郎の算盤を奪い ぱちぱちと打ってみせた

ちなみに私は算盤一級を持っている
昔取った杵柄が たった今 初めて役に立った事が感慨深い
単位が円じゃない事を除けば 昔も今も変わらないものね


「数さえ言ってくれたらスイスイ計算してみせるわ」
「本当に出来るのか…」
「よいしょ…さて、願いましては〜」
「その前に……重い」
「は?」
「乗ってる」

おもいっきり椅子気分で 文次郎の膝の上に乗っかっていた
無意識というものは なんと恐ろしい

「…あらま、ごめんねお父さん」
「誰がお前の親父だ」

膝の上から投げ落とされた  仮にも乙女だというのに 何という酷い扱いだろう
この前 落とし穴に落ちた私を見つけてくれた時の貴方は何処へ消えた


「暇潰しはいいだろ、さっさと部屋に戻れ!」
「えぇっ私の算盤の実力見たでしょ!?少しは戦力になると思うのに…」
「お前の相手をして何分無駄になった事か!出て行け!」
「なっ…生意気な…!出てきゃいいんでしょ出てきゃあ」

憎たらしいので 頬をつねってやってから部屋を出た
ちなみに前回叩いた方と反対の頬をつねる所が 私のささやかな優しさ










「算盤上手かったですし 手伝って貰えばよかったじゃないですか」
「あいつが居ると集中出来ないから駄目なんだ、三木ヱ門」
「それ先輩だけじゃ…いえなんでもありません」




 Next→

(08.6.25 喧嘩するほどなんとやら)