「……そういう訳で、これで買って…ね」 「えっ!?そ…そんな戴くわけには…」 「気にしないで、これで好きな着物を」 「…ではお言葉に甘えて戴きます…でもいつか働いて必ず返しますからねっ必ずっ」 山本シナ先生にお金を戴いて 自分用の新たな着物を街で調達しに行く事になった ただ 私ひとりで街に出る訳にはいかない もし行ったら 例のギンギンしてるヤツの怒号を夜通し聞く羽目になるだろう では誰と一緒に行けばいいのか、それを私は現在思案している それなりに強い、着物選びのセンスが良さそう、面識がある ・・・この条件に見合う人は誰だろうか 「……あの人しか居ないわ」 という事で 早速お目当ての人にアタックしてみる 「仙蔵さん、私と一緒に街に行ってくれませんか」 「あぁ、いいよ」 ほらね 貴方ならそう言ってくださると思っておりました 「ただ」 「…ただ?何でしょう」 「君の秘密を教えてくれたらね」 そう言って 彼はにこりと微笑んだ 君の秘密 というのは私の秘密? ていうかそういう人でしたっけ!? 「秘密なんて……」 「さんって何か隠してるよね?でも文次郎は恐らく知っている」 ・・・それって もしや私が未来から来た、という事だろうか 「君は独特な雰囲気を纏っている…気になるんだ、君の出自が」 仙蔵さんに見つめられると特別緊張するのは何故だろう・・・ 不思議なものだ 彼の前では隠し事を言わなきゃいけないような気がしてくる まぁ 未来から来た事は 別に隠しているわけではないけれど 「わかりました…でもこの話は あんまり広めないでくださいね?」 秘 密 彼女は珍しい物を見るような眼で 色々な店を覗いている 着物を見つけると 明らかに目の色が変わった 生まれた境遇がまるで違っても 女性はやっぱり女性なのだな 「着物は着物でも色んな柄があって どれを買えばいいんだろ…」 「ここら辺にある物は高価なものだよ」 「あっそうなんですか!?危ない危ない……」 時間を移動する?・・・概念が全く理解出来ない しかも あのような菓子ひとつで?益々信じられない 「つまり 私は未来人ってわけです」 想像の 遥か遥か先を行くような話を彼女はさらりと言った ただ あの眼は嘘をついていない眼だった その上 一応文次郎はその事を理解しているようだ 文次郎が理解出来るなら 私も理解出来るに決まっている つまりこの時代の人間ではないんだな、そういう事だな、それでいいんだな 「白とか涼しげでいいかなぁ……仙蔵さん?」 「…あっ…あぁ…ごめん」 「……あー…すいません、あんな話をしたから」 「それは違う、そもそも私が話せと言ったんだから」 彼女は 学園には明らかに居ないような女性だ 強がるわりには とても脆い 年齢だって正直信じ難い 本当に年上なのか… 「こんな私 気持ち悪いかもしれないけど…これからも変わらずに私と接してもらえたら」 「いや 理解した、それに態度を変えるような事もしない」 「…ありがとう」 軽く頭を下げ 屈託のない笑顔を見せた 「…さんにはこういうのが似合うんじゃないかな」 「うわぁ綺麗…仙蔵さんが言うならこれで決定!」 「いいの?自分の好きな柄とかは…」 「それに 私もなんとなくこの着物に惹かれてたんです」 つくづく 不思議なひとだな やはりこの時代にしては異質な それでいて面白い そんな ひとだ もし文次郎より先に私が彼女を見つけていたら どうなっていたのだろうか 「・・・残念だったな」 「…ん?何か言いました?」 「いや、なんでもない」 Next→ (08.6.29 立花様、なんと執筆を苦労させる御方…!) |